ハヂ、と半泣きで飼育小屋の中でひっくり返って俺を呼んだのは三郎だった。髪の毛取れた雷蔵、ではないはずだ。何してんだよお前、という目で眺めてやると、ハヂ、とまた鼻を啜りながら三郎が助けを乞うた。

「孫ちゃんにやられた」
「孫兵?」
「人間とその他の生物、どっちと交尾したいか聞いたら」
「お前下級生になんてこと聞いてんだよしかも俺の後輩に」
「先輩もこの子達のよさに目覚めればいいのにって微笑まれて投獄された」

小屋を投獄と言うあたり、孫兵の目論見は失敗したらしい。しかしこの変人ではあるが腐っても天才の鉢屋三郎に首輪を嵌めて小屋に閉じ込めるとは、孫兵の奴なかなか将来有望だ。三郎もある程度の抵抗はしつつされるがままだったんだろうが、自分ではどうにもならないようになっている辺りいろいろと誤算だったに違いない。
毒蛾の鱗粉でもはや動けそうにない三郎は、鶏につっつかれたりうさぎにかじられたり、結構上手く馴染めていると思う。
でもまぁもう目が死んでいるので、(というか散歩に行ってきたいたち達の居場所がねぇ)じゃらりと鎖を引いてその生物を引きずり出してやる。しっかり右手に握られた雷蔵の髪の毛。無抵抗の命。端から見れば不気味な現実に違いない。

「孫兵は、人が感じる痛みをもう少し知った方がいいと思うんだ」
「それは人工論だろう八左ヱ門。彼にはまずは自らがこの愚かな我々人間の同族であることを認めてもらえ」

いちいち哲学的なこの生物は、なんだかんだで俺より孫兵を理解していた。そりゃそうだ。結局どちらも人間のくせに、人間に類そうとしない者同士だった。







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