それが本物であるかどうかは取るに足らないことであって、要はそれが自らにとって必要か不必要か。得をするか否か。関わりを持つ理由の大半がそこに力点を置く。

「三郎は迷わせてくれないから好きだな」

壁に背を預けて畳に投げ出された腕に意思は通っていなくて、甘い瞬きが私を手真似いていた。と、勝手に思う。その誘いに乗って相手の感情に触れられるくらい顔を近付けてやると、じっくり、傷口に指先を這わせるように雷蔵は私を眺めた。ある程度の客観と主体性が眼球を覆っている。
はじめからうそだと分かっているならば、どうしたって心はそういう風に構えてしまう。嘘だと笑う渇いた声さえうそに属してしまう。ほらまた空回り。

「ふつうが1番難しいとよく言うけど、ふつうなんてすべてに無関心でいれば簡単に成り立つんだよ」
「ふうん。雷蔵にとってのふつうは、心を閉ざすことなのか」
「無関心でいればいいわけだよ。未来を求めたり感情を抱いたりしない、暴かれるのに抵抗もしない」

もったいないけど、きっと涼しいんだろうね。目を細める雷蔵は私の顔で笑った。

「これが僕の素顔だなんて言った覚えはなかったんだけどなぁ」

顎に親指をかけて、雷蔵は人差し指で私の唇をなぞった。目尻に解けていく甘い感情のはしっこに、私たちの心はない。どんどん熱くなっていく。









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