猫の面とはまた珍しいものを選ぶ。おかめやひょっとこや、狐や天狗ではないのだ。猫だ。細くて憎らしい。みいんみいん、蝉がうるさい木立の下に、ふらりと現れた猫が鳴く。

「にやあ」
「馬鹿か貴様は」

首を傾げてまた猫が鳴く。にやあ。暑さでぼんやりするのは仕方がない、仕方がないが、頑張れ。夏ごときに溶けていては日本の未来は拝めない。
わけのわからないものは嫌いだ。そう言えば、わけのわからないものが大好きな猫は、にやあと目を細めて笑った。

「飼わんぞ。愛でんぞ」

ぐらん、と、面と首が反対に揺れて、化け猫は本性を見せる。日替わり、嘘つき、社交辞令。影の内の蝉が止む。

「媚びねェよ」

やはり猫である。









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