「俺は、生れついて器用でねィ」

そう紡ぐ彼の肌は黒い。黒い、くらいに白くて、それは純粋に病を患う者の、闇に触れる白だった。弱った指が、小豆の小さな袋を3つ、しゃんしゃんと回す。愛らしい子供のそれは、宙を舞って彼の骨張った手に落ちてまたふわりと浮いて戻る。片膝をついて片手でそれをやってのけるあたり、彼はやはり器用なのだろう。指先に限っては。

「だから、刀がなくてもちゃァんと生きて行けるんですよ」

ぽんぽんぽん、と立て続けに浮いた3つは、彼の頭上を飛んで彼の背中に待っていたてのひらに吸い込まれた。

「…ならば、貴様はただ、侍ではなかった、ということだ」

鮮やかな目が丸くなる。それから今度は背中から3つ、お手玉が飛んで来て、ちがいねェ、と憑かれたように笑う彼の膝の上に、ぼとぼとぼとと、季節はずれの椿のように落ちた。残念ながら、夏は秋に続く。永久に。





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