狙いはばっちり、寸分のズレもない。裏路地。はいこんにちはとバズーカを構えて、急ぎ足で行き過ぎようとした浪人を後ろから止める。
桂、だ。

「いやだなぁ桂さん。俺を無視するなんてねィ」

土方さんのお陰だ。あの人はただの馬鹿だからあの店マヨネーズ買い占めてますぜなんて吹き込んだだけで、パトカー5台が動いてくれた。その店の隣の宿に、まさかあの桂が泊まってるなんてあの野郎は知らなかっただろう。だって言わなかったから。
案の定、宿の裏口で昼寝してたところに引っかかった大物に、笑みが漏れる。

「童子、玩具は人に向けてはならんと親に習わなかったか」
「すいやせんね、親はいねェもんで」
「ああそれは失敬」

わずかに顔が振り向く。生きるか死ぬかの中で浮かぶ余裕に少し戸惑った。刹那、目の奥に死を視た。気がする。

「ならば俺が教えてやろう」
「、間に合ってらァ」

キッ、と、わずかな音と細かな所作で引き抜かれた刀がバズーカを真っ直ぐに割く。瞬間。を、待っていた。どうせこいつは一筋縄ではいかない。確実に仕留めるには引っ掛けて隙を作るしかない。でもさすがに土方さんを囮にしたら、俺は懲戒免職だろう。囮の玩具なんかハナから手放して、勢いだけで瞬時に抜き身の刀を引き抜いた。ビタリと桂の首に添える。威嚇に少し刀を滑らせて、赤い線も引いてやった。
それでも鼻先に、見えるはずじゃなかった真っ直ぐな武士の切っ先が見える。
(まいったな、強ェや)
巻いた砂埃が、できすぎた演出のようで笑えた。

「どっちが上か、そんなのどうでもいい」
「そうだな」
「ただ、アンタが犯罪者で俺が警察なだけでさァ」
「ああそうだ」
「追って追われて、俺たちどこまで行くんでしょうね」
「さあ、どこまで行けるんだろうな」

持つ刀が震えた。びりびりと。
見据える。桂の目に死を視た。その小さく笑う口許が、おかしくておかしくて俺もにぃい、と笑ってやった。

「ちょうどいいから、ここらにしときやせんか」









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