汗だくで、眩しくて、目を細めた。脚が泳ぐ。風鈴が鳴る。ちりんと、妙に新しい音が体中に響いて、懐かしい畳の匂いに身を預けていた。蝉の声を風がさらった。全てがエッジな夢で、目を閉じる。
桂はみぞれが好きだから、ちょっと分けてもらおう。でも俺のいちごはやらない。それが俺の中のひとつのルールだった。
3時。丁度に鳴る時計。あの頃はこの音を、永遠に聞いていられると思っていた。縁側に寝ころぶ俺はその音で起きあがる。

「何味がいい?」

起きあがると横で桂が涼しい顔をしていて、盆に無色のかき氷がふたつと。
みぞれといちごの瓶が並んでいた。襷掛けの桂の青白い腕を見て、冷たそうなその肌に添いたい衝動に駆られたりもする。

「いちご」

即答した。

「お前はそればかりだな」
「おいしいじゃん、ていうか2種類しかねーじゃん」
「みぞれも美味いよ」
「じゃあ半分くれ」

いやだと言いながら、桂はいちごの瓶を傾ける。赤い液体が瓶をゆっくりと滑って、氷の上に流れていく。血、みたいだ。
桂。お前はいつか、化け物刀に斬られるんだ。
急に湧いたような現実が、この夢を支配した。髪をひとつ結いにした桂は、幼さを余して何一つ知らないように、みぞれの瓶を傾ける。

「ごめんな」
「なんだ、急に」

カラン、と重くて鈍いガラスの音を立てて、また赤と無色の瓶が並ぶ。人目はない。これは俺の夢だから。

「でも、お前は俺が守るほど弱くないから」
「そうだな」
「なぁ、生きてるよな」
「何を言っているんだ、貴様は」

桂の冷たい手が頬に触れる。夢でも桂はかわいげがない。すこし斜の視線が静かに笑って、あついからな、と唇がスローモーションした。此処はどこだったろうか。俺はここを知っているようだった。目の前の桂に覚える妙な違和感と一緒に、その理由は隠されているようだった。
手を伸ばして抱き寄せる前に燻る瞼に光が差した。



お妙の取り繕った笑顔で現実にぶつかる。
しとしとと降る雨が、ますます真夏のような幻を裏付けていて、桂のいない背中にぬけ落ちたような寒気が走る。あついからな、と告げた唇が、ひどく重い身体に焼き付く。







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