ふわら、と2つに結った髪が揺れて、開いた瞳孔に激情が見えた。名前を叫んでも雨は帰ってこない。頬杖をついて水玉のスカートが大きく舞うのを眺めた。隣で店長と仲良しの猫が欠伸をする。ダダダダダダダ、と連射の度にぐらぐら揺れる雨の身体が怖い。
なんだか虚の動きにそっくりだった。

「おやァ、女の子任せですか?」
「うるせー」
「勝てます?あのコに」

扇子で指し示した先で、雨がガシャンと、振り向かずに肩に乗せたマシンガンの銃口をこっちに向ける。まさか、と思った瞬間の、連射。ダダダダダダダダ、と頬を掠めて後方に吹き飛んでいく弾丸は、T発1発が正確に虚を捉えていた。
こわいこわい、と扇子の向こうで笑う店長の帽子が宙に舞って落ちる。前に、ぱさ、と、どこからともなくテッサイの手がそれを掬った。途端に鬼のように辺りは静かになって、雨がくるりとかかとで回る。いじめたくなる顔は相変わらずで、硝煙の上がるマシンガンをドン、と肩から降ろしてやってくる。

「…終わりました」
「御苦労サマでした。スイマセンねえ、ジン太君がふがいなくて」
「何謝ってんだコラ」
「雨殿、ささ、お手当を」
「ううん、大丈夫…」

見れば、雨の掌は焼けている。当たり前だ。あれだけ高密度の霊糸のかたまり撃ち続けたら、誰だって摩擦で皮膚が擦り切れる。波動を相殺するには、同じだけの密度を掌に集中させなくちゃならないけど、そもそも威力が威力だ。店長の発明はいっつも欠陥品だった。
何が大丈夫だ馬鹿野郎。一人でいい格好しやがって。雨の平気そうに見せやがる顔にイライラしてきてそっぽを向いた。

「テッサイさん…それより、ジン太君がね」
「は、」
「ごめんね…ほっぺた。痛い?」

びっくりしてぱちん、と頬の傷を隠した。雨がぽけっと覗き込んでくる。大丈夫?と焼け爛れた手が、おもむろに伸びて来て、もっとびっくりした。思ったより皮が溶けてて、なんだかもう、火傷どころじゃない。どこが大丈夫だ。

「……なぁ」
「…なぁに」
「馬鹿だろお前」

中途半端に浮いた雨の腕を引っつかんでテッサイのところに連れていく。いつの間にか黒猫がにやにや笑う店長の肩に乗っている。テッサイは見上げたところでなんでかほろりと泣き出した。

「痛いよジン太君」
「へっよかったな痛くて」
「痛いよ」

雨が笑った気がした。








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