からころと音がする。舌で弄ばれるそれはきらきらと時折光る。ああ気に食わない。音も、色も、鉢屋も。うっとおしくて仕方がなかったので、委員会の邪魔だ、と手を振って一瞥してやる。委員会といっても、まぁ、1人きりだったが。
すると、ふわ、と、近くで甘い匂いがして、視線を持って行かれた。

「そんなカリカリしないでくださいよ。これ、要りますか」
「要るかバカタレ」
「甘いの、イイらしいですよ。イライラに」

眼前の舌に差し出された、それ。
ああ、甘さが空気を伝ってくる。それは鉢屋が好んで面を被る学友の雰囲気によく似ている。同じ顔のくせに、目の前のそれはどこか塩辛い。

「雷蔵にもらったんですよこれ」

やっぱりそうか。見せびらかすばっかりで、ほしいですか、と口先だけのそれは、鉢屋の得意なただの嫌がらせだ。こっちの隠さない苛立ちにニヤリと笑う。いちいち腹の立つ奴だ。仙蔵に可愛がられて早5年、そろそろ兄弟だと公言しても誰も訝しまないだろう。お陰で筆は一向に進まない。

「…好きだな、お前も」
「まぁそりゃあ雷蔵はわたしの総てですから」
「違ェよ。物好きだなっつー意味で」

ぐい、と隙だらけの顎を机越しに引き寄せてがつり、と口に噛み付く。眼前の唖然とした目。舌先で奪う甘味。思うより柔らかい感触。一瞬のこと。
飴玉だけ奪うとあっさりと離れて今度はこっちがニヤリと笑ってやる。まんまるい目がいい気味だ。

「おーおー確かに治るな。イライラ」
「っ…返せ、」
「ハッ油断してるほうが悪ィんだよ」
「…返せ、わたしの、雷蔵」
「あ?先輩に向かってなんつー口の利き方しやがる」
「…ぅ……かえ、せ…わたしのっ……らいぞ、返、…、して……」

くだ、さい、とついに顔を塞いで鉢屋は俯く。おいおいおいちょっと待て。
そんなに大事なのか。こんなもの溶けちまうのに。そんなに嫌だったか。一瞬のことがそんなに。泣くほど。

「っ、鉢」
「なんつって」

あ、コイツ。そりゃそうだ。鉢屋だった。演技力なら学園で1、2を争う。ニヤリと笑って容赦なく近付く口に、取り返される、と、思いきや。

「あ、先輩、今、期待しました?」

眼前で吐息が届く距離で囁かれる、甘い声。
思わず出た舌打ち。馬鹿馬鹿しい。かろん、と口の中を満たす甘さに辟易した。


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