三郎の言葉に翻弄されて兵助は泣いていた。八左ヱ門がぎょっとして三郎の名前を呼ぶ。三郎は兵助を見てもなお、とどめでもさそうかと言わんばかりに口を開く。だめだ。兵助が壊れる。
必要のない追い詰め方に、気付けば三郎の頬を叩いていた。

「最っ低だ、三郎」
「……」
「見損なった」

叩いた頬に触れて、三郎は呆然としていた。それに背を向けて、兵助を抱きしめる。三郎にさんざん掻き乱された心のせいで、ふらりとすぐに身体を預けてきた。途端に耳元で溢れ返る泣き声は悲しみでぼろぼろだ。

「人の心は単純なんだよ三郎。君が抱くたくさんの感情だって、解いてみれば案外簡単なんだ。だから簡単に崩れちゃうし、簡単に掻き乱される。わかってるだろ。誰よりも人の心を多く扱う君なら、わかってるだろ。わかった上で兵助を傷付けてるんだから、ぼくは君を卑下するよ」

兵助の腕がぎゅうと背中に回る。泣き止む気配はなかったから、八左ヱ門に先に行ってて、と笑いかける。

「なぁ三郎。みんな辛いだけからもうやるなよ」

八左ヱ門が気まずそうに頭を掻いて、行こうぜ、と三郎の手を引いて行った。すれ違い様に三郎が小さく、うん、と頷いたのを見て、安心して兵助の頭を撫でてやった。


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