死ぬのは自分の勝手だと言わんばかりに鉢屋は連日、無茶を繰り返して、今日という今日はついに雷蔵に殴り倒された。当たり前だ、おれたちはもう5年生なんだ。

「いはい」
「口切ったんだから喋るなよ」
「へーふけ」
「はいはい口開けて」

馬乗りになって雷蔵は鉢屋を殴っていたらしい。八左ヱ門がたまたま見かけて止めてなかったら、鉢屋は死んでいたんじゃないだろうか。竹谷に押さえ込まれるようにしておれの部屋に来た雷蔵はぼろぼろに泣いてびっくりするくらい混乱していた。それでおれは苦々しく笑う八左ヱ門に言われて仕方なく鉢屋を見に来てやったのだ。
あー、と素直に口を開ける鉢屋の目は平生と変わらない。どこか淀んでいて人を食ったような偉そうな目だった。

「鉢屋は雷蔵が大事なのか」
「うん」
「それと同じように雷蔵も鉢屋が大事なんだからさ」
「うん、うん」
「な」
「うん、ひっへる」

咥内の傷口に薬を塗りながら、じっと目を見据える。どれだけ雷蔵になっても鉢屋は鉢屋だったし、そんなこと鉢屋自身が十分すぎるほど知っていただろう。

「わらひ、雷蔵にころはれるなら、ひあわへらろ思う」
「鉢屋、お前変だよ」
「へーふけにいわれたくない」

おろーふで窒息ひらいくへに、と鉢屋はけたけた笑って畳に転がった。

「あーあ、雷蔵、なんれ殺ひてくれなかっらんらろ」

純粋すぎるまなざしが、屈託無く笑う。


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