何をいらいらしているんですか、と、柔らかな低温が耳元を掠める。その喉のなだらかな隆起に手を触れると、毛利はそれを掴んで押し倒した。毛利に、劣勢、という言葉はないらしい。

「貴様の声も態度も存在もすべてが腹立たしい、が、強いてあげれば貴様を殺したとて満たされぬこの心が、」

忌ま忌ましい、と吐き捨てられた言葉は生きる術もなく死んでいった。もとより生産性のない二人だった。生を望む方がどうかしている、と明智は心のそこから笑い起こした。

「ぞくぞくしますよ、あなたのその正直な目」
「死ね。さもなくば殺す」
「おや、織田の遣いを殺す、ということがどういうことかわからない貴方ではないでしょうに」
「故に二度は申さぬ。さっさと死ね」

毛利の目が細くなるのに比例して、明智の目は開いていく。どちらともなく沸き立つ殺意に、もう他殺は禁じ得なかった。

「あなたが死ねば、すべてが上手くいくのですがねぇ」






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