あの男を語るとき、僕はとてもいやそうな顔をしているのだと思う。実際そうだった。古い友人たちと会えば、彼らは決まって僕にあの男のことを話させようとする。なぜならその男はあの巣箱から真っ先に飛び立ち、真っ先に所在を眩まし、今も尚名前だけが飛び交う幻のような存在になってしまったからである。おい雷蔵、あいつはいま。さぁ知らないよ。僕はあの男の保護者でもなければ嫁でもない。お前たちと何ら変わらないただの友人で、ただ皆よりはほんの少しだけあいつの本性を知っていただけにすぎないんだから。僕がそう言えば途端に、皆、近況の話に話題を変える。きっとそのときの僕が、ひどくいやな顔をするからだろう。それもまぁ先日、あまり気遣いとは無縁な近しい友人にはっきりと言われてやっと気付いたのだが。驚いた。雷蔵、お前そんな顔もできたんだな。そう言って黒髪の凛とした涼しげな風貌の友人は微笑んだ。ああ、あの男は、人の顔を借りるだけでなく、人に顔を貸すのだなぁと、僕はひどく満ち足りた答えにぶちあたって急にひどく悲しくなった。鉢屋三郎が僕にこの顔を与えてもう3年が経つ。






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