救いの祈り



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   お館様と





  「私は医者だ。」

そう穏やかでともすれば大人しいと印象を受ける声で言ったのは炭治郎君の叔母である炭花さん。叔母といってもまだ二十代前半に見受けられる。外国帰りだと言った彼女はフリルのついたブラウスに袴を履き、青いマントを身につけていた。左腕にはベルトのようなものがくくりつけられており、腰には西洋の剣が帯刀されていた。剣を携えた医者がそういるものか。しかし先だっての煉獄さんや炭治郎君にした適切な応急処置は見事なものだった。医者としての腕は確かだ。外国で女の身で医者になるなど、そう簡単なことではなかったはずだ。しかし炭花さんはそんなことを感じさせない穏やかな顔つきだった。炭治郎君によく似た、しかし同じ女性でもはっと目を引くその美貌。煉獄さんから報告の受けた話は俄かに信じ難い。今回この場に来た蟲柱の私と風柱の不死川さん、そして水柱の冨岡さんはじっと彼女を見た。
「炭花さん、あなたさえ良ければ鬼殺隊に入ってはくれないだろうか?」
お館様の落ち着く声が投げ掛けられる。報告が本当ならば、彼女は心強い味方となるだろう。煉獄さんの言葉を疑う訳ではないが、いざ本人を目の当たりにするとすこしばかり信じがたい。
「鬼殺隊に入れば家族の仇が打てるときいた。」そっと目を伏せた炭花さんは、息を呑むほど美しかった。お館様にもあるように、彼女にも不思議な魅力を感じざるを得なかった。
「炭花さん、貴女には是非ともご協力をお願いしたい。それだけの力が貴女にはあると私は思っているよ。」その言葉に不死川さんは噛み付いた。「いくらお館様といえどそのような得体の知れない女を鬼殺隊に入れるのは反対です!!だいたいこの女が上弦の参を一瞬で斬り伏せたなんて信じられねェ!!」ギラリと瞳孔の開ききった目で炭花さんを睨みつける不死川さん。刀に手をかけると炭花さんに飛びかかる。しかし、次の瞬間不死川さんは地面に転がっていた。「っなァ!?」本人もいきなり天を見て困惑したような声を漏らす。彼女がやったのだろう。しかし見えなかった。力がない代わりに速さだけは磨いてきたつもりだった。その私でも彼女の動きを追うことができなかった…。
「ふむ、私が入隊するのが不服だというものはかかってくると良い。これでも非公式とはいえ、騎士として叙勲された身。そこらの小童には負けはしないぞ。」すらりと抜かれたのは西洋の剣。細かい装飾と紋章。しかし不思議と闘気というものは感じなかった。ただそこにあるのが当然かのような佇まい。ぞくりと粟立つ。彼女は決して敵に回してはいけないと。全身が叫ぶ。
「医者だというのなら私の屋敷は来ませんか。鬼殺隊や鬼のこと、まだまだご存知ないようでしょうし、私が説明します。それに海外の医術にも興味がありますから、ご教授していただいても?」
「ふむ。私は問題ない。…お館様、それでよいだろうか?」
炭花の言葉に親方様が嬉しげに微笑む。「勿論だよ。みんなもそれでいいね?」
御意、と3人の声が揃う。不死川さんは投げ飛ばされてから不服そうだが、冨岡さんは相変わらず言葉を発さない。炭花さんは抜いていた剣を鞘に収めると、こちらへやってきた。
「失礼、貴女の名前は?」
「私は蟲柱の胡蝶しのぶと言います。…炭治郎君と混ざってしまうので、炭花さんとお呼びしても?」
「勿論だよ、Ms.しのぶ。同じ医者としてよろしくね。」
ふわりと笑みを浮かべ、こちらへと握手を求める炭花さん。私も笑みを浮かべ握り返すと、そのまま彼女に抱きしめられ頬に唇を寄せられた。…唇?ぽかんと彼女を見返すと、慌てたように離れる炭花さん。
「失礼!外国暮らしが長いもので…これは向こうの挨拶なの。日本では馴染みがないから、驚かせたでしょう?」
なるほど、たしかに聞いたことがある。西洋ではあいさつで頬に接吻をすると。しかしそのようなことを自分の身で体験するとは思わなかった。慌てた炭花さんは年相応な女性の口調でそう言ってきた。
「い、いえ!いいんです…少し驚いてしまっただけなので。では、私の屋敷に参りましょうか。」
「分かりました。…では私は失礼します。」律儀にも不死川さんと冨岡さんに頭を下げる炭花さん。多くは語らないが決して愛想が悪い訳でもなくひたすらに穏やかな彼女はどこか姉さんに似た香りがした。










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