救いの祈り



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   夢うつつ





  幸せな夢を見た

外国から帰国した私は家へと一気に走り抜ける。兄さんと共に神楽を一日中舞っていた私は一時走るくらいでは息も切れない。ちょうど昼餉の時間だろうか?煙突からは煙が出ている。家の戸を開け放つと、甥っ子や姪っ子には目も暮れず兄さんの部屋へと走る。スパァンと障子を開けると、目を丸くして兄さんが私を見た。すぐに穏やかに笑うと、「おかえり、炭花」と。病でこけた頬も気にならないほど温かな笑顔だった。「兄さん!薬が完成したんだ。これで兄さんの病も治るよ。」年甲斐もなく兄さんに飛びつく。ああ、よかった間に合った、と息をつく。兄さんはゆっくりと私の頭を撫でると「無事に帰ってきてくれただけで病も吹き飛びそうだ。さぁ、一緒にお昼を食べよう。」暖かい。兄さんの手。そして後ろから続々と飛びついてくる甥と姪たち。「炭花姉さん!」帰ってきた炭治郎がさらにその後ろから抱きしめる。「あ!炭花姉さん!帰ってきてたのね!みんなずるい!私もー!!」禰豆子がそう言って飛びついてくる。ものすごい圧迫感に幸せを噛み締める。苦しいはずなのに、ちっとも苦しいって感じなかった。「あら!炭花ちゃん!あらあらみんなして…母さんも仲間に入れて」そういってさらに包み込んでくれた葵枝姉さん。懐かしい、竈門家の空気。みんな穏やかで温かい大好きな人たち。ああ、なんて幸せな夢だろうか…。

ぱちりと目を開ける。とても幸せな夢を見ていた気がする。兄さんが亡くなってから外国を飛び回り医術を極めた私は少しでも兄さんと同じ病の人を救おうと日本に帰ってきた。家へと向かう汽車で仮眠をとっていたのだが、目覚めるとなにか様子がおかしなことに気がつく。うねうねとありえない動きをする汽車に静かに目を瞬かせる。すると大きく汽車が横転した。考える前に汽車の窓を突き破り外へと出る。何が起きていたのか?すん、と鼻を動かすと微かに漂う懐かしい匂い。これは炭治郎の匂いだ。それと禰豆子の匂いもする。まさかこの汽車に乗っていたのだろうか?怪我などしていては大変だ、と匂いの元を探すと怪我を負い血まみれの炭治郎が。汽車に投げ出されただけで負うような怪我の仕方ではなかった。一体どういうことなのだろうか。「ひゅっ…ね…さ…!れんごく、さんが…鬼が…!」まともに身動きがとれない炭治郎が必死に前方の2人へと視線を向けている。鬼、とは。あの刺青の男のことだろう。相対している男が煉獄、だろう。刺青の男の明らかに人とは違う匂い。「ふむ、あの鬼はどうやったらしぬのだ?炭治郎。」前方の2人の戦いは拮抗しているように見えて違う。煉獄と呼ばれた男は確実に傷が増えている。鬼は傷がすぐに回復する。「鬼は…この刀で頸を切らないと…倒せない…でも、ゴホッ、…」咳き込み血を流す炭治郎。手当てをしたいのは山々だが、このままいけばあの煉獄という男は死ぬだろう。数年ぶりに日本に帰ってきたかと思ったらなぜこんなことに巻き込まれたのか?可愛い甥っ子との感動的な再会に水を刺されるのは不愉快だな。全く。
「これを借りていくぞ」
炭治郎が何かを言った気がするが今はこの鬼とやらの頸を落とすのが先だ。










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