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日麻の目の前には小波が。


日麻は海辺に来ていた。


「姉様…最期は私が見守りますゆえ」



久志改、勝呂が姉を見据える。




『…安寧、と言えるほどではないが…皆が生活できるであろう国も作れた…ここで私が消えれば、全てうまくいくであろう…』


日麻は波打つ海へと歩を進める。


勝呂はそれを真っ直ぐと見据え、姉の姿を刻もうと瞬き一つしない。



『其方には苦労をかけた…


高天原に神留座す
皇親神漏岐神呂美之命以て
日皇太神を奉請青體の幣帛白體の幣帛を
百机に悉備奉
種々之物を横山之如く積足して
百度の置戸を以て祓給ひ清給ひて
朝日の豊栄の光照す天暁げ待奉祭祀の
御太麻の倍心成就に常磐堅磐に守り給て
延齢之事を八百萬神等諸共に聞食と申す―』



静かに凛とした声で祝詞を紡ぐ。


祝詞を唱えながら一歩、また一歩と海へ入っていく。


『勝呂…其方に幸多からんことを…』


ざぶり、日麻のすがたはもうない。


日麻は静かに、己の足で海へと沈んでいった。





これが卑弥呼と呼ばれた女王の、最期―


静かに日は侵食され、皆が君主の死を予感した。



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