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『天下は既に我の手にあり!
皆よ、今まで良く我に仕えてくれた。
礼を言おう。そしてこれからもまた、我に付いてきてくれるであろう?』
「もちろんです!!」
「我らが女王様!!」
「我が君!!」
周りは既にお祭り騒ぎをして喜び狂っていた。
「日麻様!!」
ひとりの男が日麻に文を差し出す。
日麻にそれを差し出したのは目付きの鋭い男―名を久志(くし)といった。
『久志。すぐに向かう。準備をせい。』
日麻は民衆に軽く手を振ると、直ぐに後ろに下がった。
「御意。我が君。」
久志は一礼をして素早くどこかへ走っていった。
『狗奴国の輩が…とうとうきたか』
日麻は奥歯を噛み締めた。
「卑弥呼め…女子のくせに我が国を侵略しようなどと…片腹痛いわ!!
卑弥呼を見つけたら殺せ、殺すのだ!!!」
これは歴史の柵―たとえどのように回避してもしきれない闇―
『分かっていたさ…
私もここまでか―』
日麻は上を見上げ、そっと目を閉じた。
「我が君…」
鋭い目付きの男、久志は心配そうに日麻を見る。
『ふ…
そうだ…其方、名を捨てよ。
これからは勝呂と名乗るがよい。』
日麻は久志にそう言い放った。
「勝呂…でございますか。」
『そうだ。其方は今までの名をすて勝呂としていき―
私のことも忘れなさい』
久志の目が大きく見開かれる。
「そんな!!姉様を忘れるなど―」
久志は日麻―実の姉に向かって激昂した。
だがすぐに姉は意思を曲げる気がないと悟ったのか、おとなしくなる。
『不甲斐ない姉を許してたまふ…
須佐之男、其方の名を呼ぶのは今日が最後だ…』
「姉様…では今日が…」
久志、いや勝呂が涙を目に貯めて、姉に問いかける。
『そう…今日が私の命日だ…
後のことは、お前に任せたぞ。落ち着いたらどこへでも好きなところへ往くがいい…
好きなことをして、はよう子孫を残すのだ。』
私には出来なんだ。
日麻は悲しげに笑う。
『まだ其方には早う話か?まぁ良い。
ではさらばだ』
「姉様!!!」
日麻はゆっくりと歩を進める。
「卑弥呼はどこだ!!」
『ここじゃ。莫迦者。』
ひとりの初老の男が日麻の方へ振り返る。
「見つけたぞ!!卑弥呼!!死ね!!!!!」
初老の男―狗奴国の王が卑弥呼―日麻の方へ向かって矢を放った。
『ほんに…この莫迦者めが…』
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