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「ひぃ…!!なんだ…こいつは!!」
そう恐れ戦いた目線の先には化け狐。
白い肢体にかすかに灯る狐火―
「うあぁああああ!!誰か!!」
男は逃げ惑う。それが化け狐に更なる力を与えているとも露知らず―
ぱんぱん、拍手が鳴り響く。
『廣前に秋の垂穂の八握穂を持清まはり』
ぱん、
『御炊きて備る御食は柏葉に』
ぱんぱん
『高らかに拍八平手の音平けく安けく』
ぱんぱん、
『神は聞ませ宇豆の大御膳―』
ぱん、
「あ、貴方様はー!!」
そこに居たのは手に柏餅をもち、祝詞を唱えた人物―
《主―われにそれを捧げるというのか―?
人間の小娘が…》
日麻は静かに柏餅を差し出す。
当時の時代では考えられないほどに高価なもの。
それを狐に差し出すとは、と男は頭の隅で考えたが―
すぐにそれを追い払った。
日麻は白狐をすぐに手懐けてしまったからだ。
「あのお方が…我らが女王、日麻様―――」
《御主の―いや、主様の尊名は?》
白狐が恭しく、日麻に頭を垂れた。
日麻はひと間おいて、ゆっくりと答えた。
『我が名は日麻、倭国の王なり。
汝を歓迎するえ?』
おっとりと、嫋やかに微笑む。
まさに王と名高きものの風格であったと、後に男は語った。
それを見ていたものがまだいたことに、誰も―いや、日麻以外は気付いていなかっただろう。
ちらり、とはるか彼方を見上げる。
『私が気に病むことでもないか…いや、だがあの者はよからぬことを企てておる…まぁ、私の目的の前には支障は無かろう。』
つい、と日麻は視線を空から外した。
「やはり…私に気づいておられたのか…
卑弥呼様も、侮れないな…」
はるか上空でにたり、と嘲る様に嗤う。
その男もまた、気付かなかったのだ。
想像以上の、日麻の力に…