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白と赤の衣を身にまとい、どこか気品と風格を匂わせる少女は、静かに目を開いた。
黄色と紫色の双眼。
メフィストは笑みを深め、藤本は突然の事態に頭を混乱させた。
が、そこは聖騎士。すぐに冷静を取り戻すと、少女の姿を見定めようと観察する。
そこに、空間によく通る、涼しげでも力強い声が耳に入る。
『まさか、目覚めて早々、またその顔を見ることになるとは…まこと、不運なことこの上ない…男児が我の尊顔を許しもなく覗き込むなど…無礼も甚だしい。』
辛辣なことを極めて不愉快そうに述べる少女。それもそのはず、同時卑弥呼の顔を男が見ることは禁じられていた。
偉そうな言葉も、少女の風格からか、何の違和感もなくすんなりとは言って行くのが不思議だ。
「おやおや、それはどうも。ご無礼をお許し下さい?
姫巫女様?」
メフィストはどこかあざ笑うかのように少女―姫巫女に言い放った。
「卑弥呼!!?なんで…!」
藤本は予想はしていたが、まさか本当に卑弥呼とは思わず、声を上げてしまった。
姫巫女、日麻が藤本に顔を向けると懐から扇を取り出し口元に当てる。
そして扇に隠された口元は愉快そうに歪められていた。
『其方…、ほお、面白い…
死相が出でいるえ?
残り一年…一年半じゃ。其方、死ぬぞ?』
日麻の双眼がゆるく弧を描く。
その言葉にさすがのメフィストも表情を強ばらせた。
歴史に名高い巫女、姫巫女直々の予言だ。
実際に日麻の力をその身に受けているメフィストは、尚の事。
『ふむ…?藤本とやら、其方血の繋がらぬ息子が二人おるな…しかも忌子…双子かえ?
見えるぞ、青い炎が。片割れと其方を包む、青い炎が。』
青い炎、その言葉に、二人が顔をさらに強ばらせたのを、日麻は見逃さない。
『ほんに…この世も愁い大きことよの…誠の安寧は、訪れなんだか…』
ポツリ、と日麻は漏らした。
その時の瞳が悲しげに細められたのを、二人は確かに見たのだ。
「さすが姫巫女様ですねぇ、そんなことまで分かるのですか?詳しくお教え願いたいですねぇ…?」
『我は其方に話すことはない。
…藤本とやら、私の世話を頼む。』
「…は?いや俺、は…」
歯切れが悪い藤本。
『…世話を頼む身ゆえ…其方のこと、手助けしてやる…私は、暫し…眠らなければ…いけない…
其方なら…私に触れられる…、…、』
少女が、倒れこむ。
藤本は日麻を慌てて抱きとめると、日麻は安心したかのように寝息を立てた。
「何が…どうなってんだ…?」
「…まあ、謎だらけではありますが…あの姫巫女、ですよ?それに、あなたのこと、助けてくれるといいましたからねえ…藤本、姫巫女様はあなたが面倒見なさい。ヴァチカンには私からうまくいっておきましょう。」
メフィストは己の顎鬚を撫でながら、興味深そうに日麻を観察して、いつの間にか出した紅茶で喉を潤した。
「…世話、って言っても…」
「なあに、いま彼女はねているだけのようですし…目が覚めるまで監視、及び観察でもしてればいいんですよ。」
メフィストの言葉に若干眉根を寄せると、そのほかに方法がないことを直感で悟り、「わかった、」と了承するしかなかったのだ。