鈴がついた扉を開くと、謎のポーズをした2人の店員が出迎えてくれた。




『有りものでいいから外出用の服を用意してほしいんだけど。早急に!』







グレイは店に入るなり、店員に見向きもせずにそういうと、奥からメガネをかけた女性がハイヒールをコツコツ鳴らしながら現れた。


みるからに洗練された都会の女性といった感じだ。
そんな彼女は、貴族であるグレイをみても気怠そうに口を開いた。




「申し訳ありませんが、当店は成人男性仕様のご用意はなく……」


『ボクじゃなくて、必要なのはこっち』









グレイが後ろにいる名前を親指で示すと、店主と思わしき女性は一気に瞳を輝かせた。



「まぁ……!まぁ、まぁ、まぁ!」





「えっ……わ、私ですか?」






まさか自分用の服を仕立てるつもりとは思わず、動揺していると店主の女性にずいっと顔を覗き込まれ両手を掴まれた。




「お初にお目にかかりますわ、マドモアゼル。私は季節を告げる仕立て人ニナ・ホプキンス。すぐに麗しのマドモアゼルにぴったりの洋服をこしらえてみせますわっ!」






先ほどの態度とは打って変わって、ニナと名乗る女性は上機嫌で応えた。





『あ、そうだ。ちなみに12月に舞踏会があるから、それ用の礼服もいっしょに注文したいんだけど』



「承知いたしましたわっ!」




 

発注を受け明るく返事しながらも、ニナは客人であるグレイに露骨に見向きもしなかった。

よほど、成人男性には興味がないらしい。







「ちょ……ちょっと待ってください、グレイ伯爵!いくらなんでもそこまでして頂くわけには参りません」






当事者をそっちのけで次々と注文していくグレイに、名前は慌てて制止する。


どれだけ貴族が裕福で、ノブレスオブリージュの精神があろうとも、使用人に洋服のお下がりを与えることはあっても新品を仕立てて、あまつさえドレスまで用意してやるなど聞いたことがない。






グレイの行動は明らかに常軌を逸していたが、当の本人は何の気無しに頭の後ろで腕を組み、つまらなそうに店内をウロウロしていた。







『君の礼服はボクが用意するって言っちゃったしねー。それに、今日だってみすぼらしい格好で隣に並ばれても困るしさぁ』









グレイがそういうや否や、ニナは強引に名前の腕を引き、メジャーを手に試着室へ押し込んだ。






「さ!伯爵もああ仰ってることですし、お言葉に甘えましょう!いいわあ!!!イマジネーションの泉がみなぎってキタわ!休日のロンドン街歩きにはハリスツイードのワンピースでいきましょう!定番のヘリンボーン柄がいいわね。袖口に黒のラビットファーをあしらえば一気に華やかになるわ。耳元にパールかダイヤのイヤリングが欲しいところね。舞踏会のドレスのカラーはやっぱり冬らしいアイスブルーかしら?でも金の刺繍が入った清楚な白も捨てがたいわ……」









何かのスイッチが入ったニナに呆気にとられ、名前は完全に抵抗する気力を奪われてしまった。










『ま、ボクは女の子の流行なんて興味ないからさ。フィップスの紹介で来たんだけど、あとは任せたよ』






女性とは思えない強い力でズルズルと引っ張られながら試着室に続くカーテンが閉められる時に、最後に見たのは笑顔でヒラヒラと手を振るグレイだった。



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