滅多に弱音を吐いたりしない名前が珍しく口を尖らせた。

ダンスは余程、性に合っていないらしい。









しかし、その日に舞踏会のパートナーを言い付けておかないと、ギルバートとかいう訳のわからない男の誘いを断る理由がなくなってしまう。


それは何としてでも阻止しなければ。













『何言ってんの?これも仕事の一部なんだから、きちんと務めをはたしてよネー』










雇い主としての立場を大きくふりかざせば、雇われの彼女はそれ以上何も言えなくなってしまうのだった。











「さ!お喋りもそこそこに、レッスンを再開するわよ!なんせ舞踏会まで時間がないんですからね」








ロドキン夫人が手を叩くと、名前は重い足取りで腰を上げた。










名前の弱点を見つけて愉快な気持ちと、元はと言えば自分のエゴで苦手なものをさせていることに、グレイは少しだけ居た堪れない気持ちになった。









(仕方ないなァ……)










グレイはレッスン部屋から少し離れて、近くを横切った適当な使用人に声をかけた。






『そこの君!名前に冷たいレモネードとタオルを持ってきてあげて。あとボクに軽食も』








呼び止めた使用人と一瞬、目が合った。



見覚えのある小さな少年だ。

名前が今面倒見ることになった……確か名はマイケルといった。







「……はい、旦那さま」








マイケルは、素直な返事をすると一礼してその場を後にした。











(……表情が少し、柔らかくなった?)









小さくなっていく少年の背を見ながら、ぼんやりとそんなことを思った。








(ふぅん。ちょっとはまともな言葉遣いができるようになったんだ。相変わらずアイソは悪いままだけど)








とても 従僕が手を焼いていた問題児には見えない。


初めて物置で会ったときは、威嚇する子犬のようだったのに、ちょっと見ない間にまるで毒気が抜けていた。





彼の面倒はすべて名前に任せているため、どんな教育をしているのか全く把握していない。








彼女が何故 クビ寸前だったマイケルの面倒をかってでたのか分からない。










尤も、変わり者な名前がおかしなことを言い出すのは今に始まったではないケド。



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