歴史あるグレイ伯爵邸の一室に、ロドキン夫人の声と激しい手拍子が響いていた。
「動きが硬いわよミス名前!んもう!貴女ほんとうにリズム感がないわねぇ」
ロドキン夫人の指導は、彼女の宣言通りスパルタだった。
いつも冷静に卒なく業務をこなす名前が額に汗を浮かべ、奇妙な動きでダンスレッスンを受ける様は滑稽だった。
(不器用かよ!!)
伯爵家の当主であり、彼女の主人でもあるグレイは部屋の隅で椅子に腰掛け、頬杖をつきながらその光景をニヤニヤと眺めていた。
『へぇ。君にも苦手なものがあったんだねー』
揶揄うようにそう言うと、彼女は不服そうな瞳を向けた。
「仕方ないでしょう?経験がないんですから……。だいたい、舞踏会のダンスのパートナーは別に私じゃなくても良かったじゃないですか」
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