「あなたは……」










真っ暗な部屋の片隅で小さくうずくまっていたのは、まだ年端もいかない薄汚れた少年だった。



腕には鞭で打たれたような傷跡があり、その目は涙で赤くなっていた。


──泣き声の正体は彼だったのだ。










「一体、なんの騒ぎです?」










物音に起こされたらしいグレイ伯爵家のハウスメイドが、燭台を手に現れた。

彼女は少年と名前たちを見て、一瞬で状況を把握した。










「まぁ!マイケルじゃない。また何か悪いことして、従僕(フットマン)に閉じ込められてたのね」











腰に手を当て、呆れたように初老のメイドが言うと、マイケルと呼ばれた少年はふてぶてしく顔を背けた。









『幽霊の正体は彼だったってワケ……』






グレイがホッと胸を撫で下ろすと、メイドは当主に向き直る。




「あぁ、旦那様はまだご存知ありませんでしたね。新しく屋敷の下働きとして雇ったマイケルなんですが、どうも難のある子でして……。
何か悪いことをすると、こうしてここに閉じ込められているんです」






散々なメイドの説明にグレイはげぇ、と顔をしかめた。






『クビにすればいいじゃん。そんな奴』


「ですが彼は両親を病で亡くし天涯孤独なので、ここを追い出されると……」










(天涯、孤独……)










その言葉に、名前の表情は人知れず影を落とした。







つまり、使用人として役に立たず職場で邪険に扱われている少年はこの屋敷を追い出されると路頭を彷徨うことになるのだ。







こんな小さな子供が街を彷徨うことなるのは、死を意味する。

運よく生き延びれたとしても碌な生き方ができないのは確かだ。








マイケルは自分だと思った。

グレイに父を殺され、幼くして天涯孤独になった自分と……









物置部屋の隅で小さくうずくまる少年と幼き日の自分の面影を重ねる。



ふと、名前の口から思いがけない言葉がついてでた。















「……あの、グレイ伯爵。彼を私に預からせてもらえませんか?」



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