『は、はァ?!そんなワケないじゃん!君が急におかしなこと言うからビックリしただけ!!』
……驚いた。
まさか彼にこんな弱点があったとは。
(暗殺の役にはたたなそうだが、当分は良いネタになりそうだ)
『そもそも、ネズミの声か風の音を聞き間違えたんじゃないの?!』
「いえ、そんな筈は……」
そういう類の音とは明らかに違った。
それに屋敷の者は皆寝静まっており、いまこの時間に起きているのは宮殿から帰ってきたばかりの自分と彼だけの筈なのだ。
『じゃあ、なにさ?幽霊なんているわけないじゃん!』
「誰も幽霊なんて一言もいってませんが」
必死な顔で否定しつつも、ガタガタと震える左手でレイピアの柄をしっかりと握って離さないグレイを見ると思わず失笑を禁じえなかった。
『なに笑ってんの?!ボクは怖くなんかないし、そもそも剣で切れるものしか信じてないしっ!』
(グスッ…グスッ…グスッ)
今度はさっきよりもハッキリと泣き声のようなものが暗い屋敷に谺した。
彼もそれに気付いたのかひっ、と小さく悲鳴をあげた。
「……やっぱり聞こえます」
『あっ!チョットどこ行く気?!』
声のする方へと走ると、グレイは一人にするなとばかりに慌てて後を追う。
グレイ伯爵家の歴代の当主たちの肖像画が飾られた薄気味悪い回廊を抜け、石造りの階段を下ると、簡素な物置部屋の扉があった。
「ここね……」
声は恐らくこの部屋からだ。
何故か扉の前には椅子など たくさんの荷物が積まれてあり、まるで中から何かが出てこられないように封鎖されていた。
『ね、ねー……もうやめた方がいいんじゃない?』
いつになく弱気な当主の言葉を無視して、声の正体を突き止めようと荷物を動かしドアノブに手をかける。
(ガチャリ)
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