(一生の不覚!)
名前はベッドの中で思わず歯ぎしりをした。
(仇だと思っている暗殺対象に、あろうことかベッドまで運ばれ介抱されるなんて!)
……それにしても、あの我儘な貴族の塊みたいな男が自分を介抱してくれたなんて俄かには信じられなかった。
(どうして彼はここまでしてくれるのだろうか……)
ふと気がつくと、ベッド横のサイドテーブルにはお見舞いのつもりなのかサンドイッチと青いメモ用紙が置かれていた。
そこには、ぶっきらぼうな字でチャールズ・グレイのメモが綴られていた。
” I wish you a quick recovery. ”
(君の回復を祈る。)
あのいつも不遜な態度の男が、こんなメモを残したのかと想像すると思わず口角が緩んだ。
そしてすぐにハッとした。
自分がいま久々に笑ったことに気が付いた。
名前は複雑な表情で、その青いメモ用紙を握った。
(私は人魚。チャールズ・グレイを喰らう魔物になると決めたのだ……だから、)
優しさを感じてはいけない。
好意をもってはいけない。
熱は下がった筈なのに、名前の胸は何故か締め付けられるような熱さを感じた。
「優しい言葉は似合わない」
続く??
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