バサ、バサバサッッ・・・・!!!
落下の衝撃でたくさんの本や物が倒れる大きな音がしたかと思うと、それまで椅子に座っていたはずのチャールズ・グレイの声が間近で聞こえた。
『あーもう、そそっかしいんだから……』
確かに脚立から落ちた筈なのに不思議と身体に痛みを感じず、名前はゆっくりを目を開けた。
「……?」
瞼を開けると、なんとグレイが名前を抱き留め、彼女にふりかかる筈だった分厚い資料たちを剣で粉々にしていた。
「な、なにを馬鹿なことをしているのですか?!この資料は王宮の貴重な資料なんですよ!」
名前はグレイに抱きかかえられていた手を慌てて振り払うと、床に落ちバラバラになった無残な資料を指差した。
『はァ?つくづく可愛げのない女だね。助けてもらっといてお礼も言えないわけ?』
グレイは肩にかかった埃を払いながら、呆れたようにため息をついた。
「と、とにかく!私 資料のコピーをもらってきます」
名前はバツが悪そうな顔をすると、急いでその場を後にした。
(バタン)
一人部屋に残されたグレイは、先ほど名前を抱きとめた手を呆然と眺めた。
『ほっそい身体だなー……。ちゃんと食べてるわけ?』
自分でもなんでこんなことをしたのかわからない。
ただ、あの女が脚立から足を踏み外すのが目に入った瞬間、頭で考えるよりも先に体が動いていた。
まだ彼女の温もりのする手をぐっと握りしめると、頭の中でフィップスの言葉が反芻された。
”女遊びは程々にしとけよ”
『このボクが、
使用人ごときに本気になるわけないじゃん……』
まるで自分に言い聞かせるかのように発せられたグレイの言葉は、静まりかえった部屋に小さく谺した。
「王子様の戯れ」
続く??
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