ブラウスのボタンが息の荒いこの初老の男の手によって着々と外されていく。
(……男なんて、ネクタイを外してしまえば皆同じだ)
どれほどの財力や肩書きを持っていても、結局はこの男のように上に跨がって獣のような行為を求める。
それ自体に特別な意味なんてない。
まるで受け入れがたいこの現実から目をそらすかのように、名前がそっと瞼を閉じた瞬間──…
(バァァアァァァァン!!!!!!)
「!?」
突然の音に驚いて瞳を開けると、先程まで上に跨がっていた侯爵が、宙高く吹っ飛び 勢いよく壁に体をぶつけていた。
『はい、そこまでぇー』
すると、バラバラに壊された扉からチャールズ・グレイとその同僚チャールズ・フィップス。
更に、女王の馬丁のジョン・ブラウンまで現れた。
「なんだっ!?一体どういうことだ!」
状況が飲み込めずアシュレイ侯爵が狼狽えていると、フィップスが倒れたままの侯爵の前で腰を屈める。
「アシュレイ侯爵。淫行未遂の現行犯であなたを逮捕します。ご同行願えますか」
丁寧な口調で手錠をかけようとすると、やっと状況を理解したアシュレイ侯爵はチャールズ・グレイに食ってかかる。
「私を嵌めたな……!この若造がァァァ!!!!」
侯爵は大きな声でグレイに罵声を浴びせる。今までの紳士ぶりは見る影もなくなっていた。
『黙れ』
彼はレイピアの切っ先をアシュレイ侯爵の喉元に突き当てた。
「ひっ……!」
『それ以上喋ると、今ここでアンタの刑を執行してもいいんだよ?』
チャールズ・グレイの瞳はとても冷たく、アシュレイ侯爵を見下ろしていた。
(そうだ……あの目だ)
数年前、父を殺した時と全く同じ眼差し。
アシュレイ侯爵はフィップスとジョンに連行され、部屋はグレイと名前の2人っきりになった。
『アンタ、頭おかしーんじゃない!?まさか、あんなオッサンに本気で身を売るなんて!!』
2人の姿が見えなくなるとチャールズ・グレイは珍しく大きな声で怒鳴った。
「旦那様が命じられたのですよ。侯爵に身体を差し出すように、と……」
『うるさいな』
ドサッ……
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