『何でいきなりオールコック夫人の話?』
チャールズがずいと顔を近付けてきたためベッドがギシリと軋む音を立てた。
「えっ、なんでって……」
彼の綺麗な灰色の瞳に見つめられると何も言えなくなる。
返事に困っていると、不意に唇を奪われた。
背中のドレスの留め具を外され、キスをしたまま傾れ込むようにベッドに押し倒される。
チャールズの頭を抱き締めるように包むと、手のひらに違和感を感じた。
「チャールズ!血!血がついてる!」
『え?』
それは少し乾いていて、指先につく程の微量なものだった。
私は指に付着した赤黒い血を見せると彼は特に驚きもせずに、指を舐めとり、生温かくて悩ましい舌がゆっくりと私の指を這った。
「……どこか、怪我でもしたの?」
不安げにチャールズの頬に手を添えると、彼は私の手首を掴む。
『君は何も知らなくていいよ』
「えっ、どういう……」
意味深な彼の言葉に聞き返そうとしたが、荒々しく服を脱がして、押し寄せるチャールズ。
こうなってはもう誰も彼を止められない。
結局、まともな返事をもらえないままチャールズに流されて行為の続きを始めた。
……どうしてだろう。
こんなにも力強く抱き締められて何も気にするなと言われているのに、こんなにも不安になるのは。
ぼんやりとした頭の中でふと、夢にでた天使の女の子のこととか、オールコック夫人のことがよぎった。
だけど深く考える余裕なんてその時はなくて……
そのままチャールズと共に果ててしまった。
……
屋敷中に サラの悲鳴が鳴り響いたのは、次の日の朝だった。
「寂しい嘘が好き」
続く??
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