「ちゃ、チャールズ!そんなもの向けたら危ないじゃない!」
私が驚くのとは反対に、ドルイット子爵と呼ばれたチェンバー卿は至って平然としている。
「おぉ!これはグレイ伯爵。相変わらず美しいシルバーブロンドをお持ちで」
何事もなかったかのようなチェンバー卿の態度にチャールズは眉をひそめて、チェンバー卿から私を引き離す。
『ドルイット子爵。名前は田舎者で、ロンドンにはまだ不慣れなものだから、からかうのも程々にね』
「Oh……からかってなどいませんよ。レディ・グレイがあまりにもお美しかったので思わず声をお掛けした次第。都会流に不慣れとあらば、私が手ほどきをして差し上げましょうか?」
そういってチェンバー卿が妖しい笑みを浮かべて、私に顔を近付けると……
『結構。じぶんの奥さんくらい自分で躾ける』
そう言ってチャールズは私の腕を強く掴んで引っ張る。
「いた…っチャールズ!痛いって!」
サラと公爵とは程遠い私たち夫婦の退場を見て、ドルイット子爵は口元に笑みを浮かべていた。
***
結局、帰りの馬車に乗ってもチャールズは不機嫌なままだった。
『君さー、不用心にも程があるんだけど。アイツがどういう男か知らないワケ?』
足を組んで眉間に皺を寄せて、チャールズはいかにも尖った口調でそう言い放った。
(何ソレ……なんで、私が怒られなきゃなんないの?)
「……お、踊りたいんなら踊ってくればって貴方が言ったでしょ」
弱々しく反論するや否や……
ドン!と大きな音がしたかと思うと、チャールズは私の背後の壁に片手をついてこちらを見下ろしていた。
鼻先まで近付けられたチャールズの顔はとても綺麗で……悔しいけど見とれてしまった。
『あの男はドルイット子爵って言って、黒魔術や闇オークションなんかに手を出してるって黒い噂の絶えない男』
「だからって剣を向けたりするのは、失れ……」
続きを言い終わる前に、不意に唇を塞がれた。
「っ……!」
突然の出来事に目を瞑ることも忘れた。
チャールズとキスをするのはこれで3度目だ。
『あー……散々待ったけどもう待てない』
やっと唇を離すと彼は、罰が悪そうな顔で呟いた。
『今夜、ボクのモノにするから』
「レディ・グレイ」
続く??
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カウンテス・オブ・グレイ=グレイ伯爵夫人の意。
レディ・グレイ=グレイの奥さん(又はお嬢さん)の意。
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