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「憂かない顔をされてどうされました?レディ・グレイ」
サラに言われたことを反芻し頭の中でこれまでのことを考えていると、プラチナブロンドの美青年に突然 声を掛けられた。
「貴方、私を知っているの?」
「えぇ。あの見目麗しいグレイ伯爵の幼妻でしょう?私はアレイスト・チェンバーと申します」
そう言って彼は私の手の甲に口付けた。
(この人……なんだか結構、女慣れしてるわ)
怪訝な表情でチェンバー卿の様子を伺うが、にっこり笑ってそんな視線お構いなしに彼は続ける。
「噂は兼々と伺っておりましたよレディ・グレイ。何でもグレイ伯爵の生まれながらの許婚で、そのあどけない眼差しはまるで純真無垢な雛鳥のようだと……」
「……はい?」
チェンバー卿のわけの分からない言葉に放心状態になっていると、彼はそっと私の髪を手に取り口付ける。
「私にも貴女のような許婚が欲しかったな。グレイ伯爵の目をはばかって私と踊って頂けますか?」
「いや、あの……」
腰まで回されたチェンバー卿の手を振り払い断ろうとした途端……
シャキンッ!
突然、私とチェンバー卿の間にレイピアの切っ先が気の抜けた声とともに降りてきた。
『またスコットランドヤードの世話になりたいのー?ドルイット子爵』
私たちにレイピアを向けた張本人は、口にフォークをくわえ、剣を握ってないほうの右手でデザートの乗ったお皿を持っていた。
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