結局、昨晩は一睡もできなかった。
自分の腕の中でスヤスヤと安眠につく少女を見て、ちょっとうらめしく思う。
『眩しい……』
大きな窓から入る朝の光りに眉間に皺をよせる。
上体を起こしベッドから降りて、眠っている名前を起こさないようにそっと部屋を出る。
(バタン)
「お早うございますグレイ伯爵。昨晩は如何でしたか?」
部屋を出ると扉の横には、女王陛下の馬丁・ジョンが影のように立っていた。
『んー?別にフツウ』
(てか、何もしてないんだけどね)
「左様でございますか。女王陛下もグレイ伯爵のご婚姻を心からお喜びになっております」
『そ。で、今日の用件は何?』
ジョンが家に来るってことは陛下からの込み入った仕事があるってコト。
「例のファントムハイヴ卿の件についてです。
フィップス様も下に待っておいでです」
『わかったー。じゃあ、後で行く』
ボクは欠伸をすると、一先ずジョンに別れを告げる。
「グレイ伯爵」
言い忘れたことでもあるのかジョンはボクを呼び止める。
『何?まだ何かあんの?』
相変わらず、ゴーグルで素顔を隠したジョンは表情が読み取れない。
「マダムを泣かせると女王陛下に叱られますよ」
『!!』
ジョンの一言にボクの動きが一瞬、止まる。
『何故……』
「それでは」
そう言い残すとジョンはボクに一礼し、その場を去った。
(一晩中、部屋の前に立っていたってこと……?)
ジョンの行動に悪寒を覚え、とりあえずボクは着替えるために部屋に向かう。
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