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ザワザワザワ‥
昼の結婚式が終わったあと、夜は暇な貴族たちによる祝いと称した夜会がグレイ邸で行われた。
「それにしても、グレイ家ってこんなに凄いのね…」
数えきれない程の人の数。
豪華なご馳走に贅沢な年代物のワイン。
あまりの盛大さに、自分の結婚式であることを忘れてしまいそうになる。
華燭の典とはまさにこのことだろう。
慣れない雰囲気にこっそり席を外し、部屋の隅に避難していた。
「花嫁様のウェディングドレス 素っ敵ー!
あたしもそんなの着たーいっ」
気付いたら、目の前に金髪に巻き髪の女の子が目を輝かせて立っていた。
「あ、貴女は……?」
「ッは!ごめんなさい、申し遅れましたっ!
はじめましてミセス名前。あたしはエリザベス・エセル・コーディリア・ミッドフォードと申します」
エリザベスと名乗るこの無邪気な少女は、愛らしくお辞儀をすると色んな話をしてくれた。
「あのねっ、あたしにもシエルっていう、すっごく可愛い許婚がいるの!」
「え?貴女にも許婚がいるの?」
こんな小さな子も、自分と同じ境遇であることに驚いた。
「そうよ!それでねっ、あたしも早くシエルと結婚してミセス名前みたいなかわいーウェディングドレスが着たいのっ!!」
瞳をキラキラと輝かせて、夢を語るエリザベスを私は微笑ましく思った。
私にもこんな時代があった。
まだ見ぬ婚約者との結婚に憧れを抱いていた時期が……
(それに比べて、今の私は何だろう……)
ニナさんが作った可愛い純白のウェディングドレスを握りしめながら、そう思った。
***
「ご結婚、おめでとうございます。アール・オブ・グレイ」
そう声をかけると、白髪の青年はこちらを振り向いた。
『その言葉、今日一日で何百万回も言われちゃいましたよ。侯爵夫人』
青年は悪戯っぽい笑みでそう答えた。
そう言われたらそこで、謝礼の言葉を返すのが普通だが……。
「ふむ……。まぁ、それもそうだな」
青年の言葉に妙に納得していると、青年は続けた。
『そんなコトより。
今度、ボクとも遊んで下さいよ。ミッドフォード侯爵夫人』
彼は、腰に携えた剣を夫人にちらつかせてニヤリと笑った。
「相手にしてやりたいところだが、私ももう歳だ……
貴殿には勝てまい」
『ちぇー、つまんないの』
グレイが口を尖らせると、侯爵夫人は微笑んで言った。
「貴殿には、相手にしなきゃいけない相手がいるだろう?」
夫人が指差す先には、夫人の娘 エリザベス嬢と名前がいた。
『……』
「あの花嫁は、いい妻になるだろう。
なんせ、家の娘と遊んでくれているしな」
そう言うとミッドフォード侯爵夫人は、グレイに背を向け去っていった。
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