***
「到着致しました。名前様」
御者の人に呼び掛けられ馬車を降りると、眼前にあるのは、見たことないくらい大きな屋敷…
「ここが……グレイ邸」
私の家も町一番、大きな屋敷だったが、そんなものもグレイ邸の前では霞んでしまう。
「「「ようこそおいで下さいました名前様」」」
玄関ホールに通されると、たくさんの使用人の人達がずらりと並んで、私を出迎えてくれた。
……今更ながら緊張してきた。
(本当に私なんかがこんなところに嫁いでいいのだろうか?)
「名前様、グレイ伯爵はこちらにおられます」
ゴーグルをかけたさっきの御者の人に案内され、長い回廊を渡り、やって来たのは大きな扉の前。
この扉の向こうに……私の婚約者が。
(コンコン)
「……」
意を決してノックをしてみたけれど、帰ってきたのは静寂だけだった。
「……グレイ伯爵?」
呼び掛けても返事はない。
(どうしよう……)
ドアノブに手をかけ、そっと扉を開ける。
「失礼します……」
(ガチャ)
ギィィィィ‥
扉を開けてみると、その部屋は書斎だった。
壁全体が本で埋めつくされていて、部屋の中央には机があった。
……そして、
その机でうつ伏せになって寝ている人がいた。
(……もしかして、この人がグレイ伯爵?)
白に近い銀色の髪に、長い睫毛。
そして、伯爵と呼ぶにはまだ若すぎるその華奢な身体。
「綺麗……」
その端整な顔から目が離せなかった。
まじまじとその男の人の顔を見ていると……
男の人の目がぱちりと開いて、灰色の瞳が瞬時に私の姿を捕らえた。
『君、だれ?』
← →
ページ数[4/5]
総数[4/80]