***





「到着致しました。名前様」











御者の人に呼び掛けられ馬車を降りると、眼前にあるのは、見たことないくらい大きな屋敷














「ここが……グレイ邸」














私の家も町一番、大きな屋敷だったが、そんなものもグレイ邸の前では霞んでしまう。












「「「ようこそおいで下さいました名前様」」」










玄関ホールに通されると、たくさんの使用人の人達がずらりと並んで、私を出迎えてくれた。














……今更ながら緊張してきた。






(本当に私なんかがこんなところに嫁いでいいのだろうか?)


















「名前様、グレイ伯爵はこちらにおられます」












ゴーグルをかけたさっきの御者の人に案内され、長い回廊を渡り、やって来たのは大きな扉の前。
















この扉の向こうに……私の婚約者が。















(コンコン)





「……」








意を決してノックをしてみたけれど、帰ってきたのは静寂だけだった。





「……グレイ伯爵?」













呼び掛けても返事はない。



(どうしよう……)







ドアノブに手をかけ、そっと扉を開ける。








「失礼します……」





(ガチャ)



ギィィィィ‥












扉を開けてみると、その部屋は書斎だった。

壁全体が本で埋めつくされていて、部屋の中央には机があった。







……そして、
その机でうつ伏せになって寝ている人がいた。











(……もしかして、この人がグレイ伯爵?)
















白に近い銀色の髪に、長い睫毛。

そして、伯爵と呼ぶにはまだ若すぎるその華奢な身体。




「綺麗……」


                                                 

その端整な顔から目が離せなかった。




まじまじとその男の人の顔を見ていると……


男の人の目がぱちりと開いて、灰色の瞳が瞬時に私の姿を捕らえた。












『君、だれ?』




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