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くしゃくしゃの新聞をアイロンにかけ、皺ひとつない綺麗になったものを女王に差し出す。








新聞の見出しはやはり大きなフォントで、



《世紀末の大恋愛!女王の末娘が英国貴族と駆落ち!?》

などと、下品な報道がされていた。






沈黙に耐えかねずフィップスは思い切って陛下に尋ねる。







『何故、グレイに手を貸すような真似を?』








その言葉にヴィクトリア女王は小さく笑って答えた。






「何のことかしら?」



『グレイに暇を与え、ジョンに逃走用の馬車を用意させたのは陛下でしょう?』






どんなことがあれ、いつも陛下の御心次第。
そうやって仕事をこなしてきたが、今回ばかりは納得が行かなかった。





最愛の娘を自分の執事と駆落ちさせ、フランスとの縁談は破綻。








(陛下はフランスと戦争でも起こすつもりだろうか?)








腑に落ちない顔のフィップスにヴィクトリア女王はクスリと笑って、窓の空に目をやった。







「可愛い娘の恋路を応援したくなったからかしら……。あの子たちを見てたら若い頃の私とアルバートを思い出したわ」






陛下は遠くを見つめて、独り言のように呟く。




『ご冗談を』



「ふふ……私も名前を他国に嫁がせるのは正直 反対なの。それにあの子、グレイのことを好きだったから断るだろうと思ってた結婚を承諾しちゃったでしょ?

だから、グレイを試そうと思ったの」



『試す?』



「えぇ。もしグレイがあの子のことを女として愛してくれるのならあの子はグレイに託そうってね。


だって……


好いた男に愛されることが女の一番の幸せですもの」









(この方は……なんという人だろうか)






娘一人の幸せの為に一国を敵に回したのだ。










寛容な女王はフィップスが注いだ紅茶を口元に持ってきた瞬間、あっと手を止めた。







「この紅茶は…」












『えぇ、ジャクソン社のアールグレイでございます』












「伯爵と我儘姫-下-」
end.



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