其処にいたのは会いたくてたまらなかった人だった。





「……っグレイ!!どうして此処に!?」


『キミを攫いにきたに決まってんじゃん』









彼はいつもの口調で当たり前のようにキッパリと答えた。







「なんで……」






未だ理解できずに、信じられないといった顔でグレイを見つめると、彼は呆れたように盛大なため息を吐いた。






『ほんっとーに君は勝手な女だよね。ボクのことを好きだなんて言っておきながら、このボクに他の男との結婚式の準備をさせるなんて?』



「そ、それは……」




不機嫌な声で詰め寄られ、思わず口籠ってしまう。
しかし、グレイはすぐにふっと優しく笑って、名前の濡れた頬に手を添えた。









『好きな女の子の泣き顔を黙ってみていられる程ボクは大人じゃないよ』








まるで、悪戯した時の子供のような顔で彼はにっと笑ってみせた。





(これは夢なの……?)







グレイが私を求めてくれるなんて。









呆然とする私の手を引き、抱き寄せてグレイは言った。









『その気にさせた君が悪い。離して欲しいなんて言っても絶対、離してやんない。我儘なボクのお姫さま』








その瞬間、返事はさせないとばかりに強引に唇を奪われた。








グレイが私の腰に手を回し舌で抉じ開けられた時に…











「お取り込み中失礼します。グレイ伯爵、名前様お迎えに上がりました」








振り返ると、そこにはジョンが咳払いをして別の馬車を携えていた。









『あんた、ホント空気読めないよね』









キスの最中に邪魔されグレイは不機嫌な声を漏らしたが、ジョンは特に悪怯れもせず続ける。







「時間がありませんので。このことが陛下のお耳に入るのも時間の問題……。名前様とグレイ伯爵はこの馬車に乗りお逃げ下さい」






そう言ってジョンは馬車の扉を開ける。









(この馬車に乗るということは、グレイと結ばれる代わりに英国を裏切り、母様を裏切るということ)











馬車に乗ることを躊躇っているとグレイが私に手を差し出した。













『ほら、名前 早く』


「で、でも……」


『ボクは君を後悔はさせない』








真剣な銀灰色のグレイの瞳に促され、心臓が小さく跳ねた。









(あぁ、この人は本気なんだ……)













迷いは消え、グレイの手を取ると馬車に乗り込んだ。















(母様ごめんなさい)









私はこの国よりもこの人の方が大切でした。









……










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