驚いて振り返ると、夫と呼ぶべき男が見下ろすように後ろに立っていた。
「いくら夫といえど入浴中に入ってくるなんて……」
慌てて指を抜いて抗議してみるが必死の抵抗虚しく、夫は冷たく言い放った。
「あれほど抱いてやったのに、まだ自涜 するなど……
やはり娼婦の女ははしたない」
男はいやらしく口角を吊り上げて言った。
「だが淫乱なお前におあつらえ向きの仕事がある。
来週、ロンドンへ向かえ」
「えっ?」
ロンドンはあの人と出会った場所だ。
たった2年しか経っていないのに、今はこんなに懐かしい。白髪 の彼のことを思い出しながら密かに心を踊らせる。
しかし、夫の言葉は 私を地獄に突き落とす無情なものだった。
「お前はロンドンの社交界で貴族どもに再び身体を売るのだ」
ロンドンはあの人に出会った場所。
そして、私が娼婦をしていた場所でもある。
「左耳はまだ君を覚えてる」
続く??← → ページ数[3/3]
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