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「いいの?夜会の最中に抜け出したりして」
情事のあと、
何の恥じらいもなく名前は生まれたままの姿でベッドの中からボクを見上げた。
『よく言うよ。
自分から誘ったくせに』
「ふふっ、
でもその誘いに乗ったのはグレイでしょ?」
頬杖をついて艶やかに笑う彼女に、一瞬 目眩を覚える。
名前は社交界でもかなり有名な遊び人。
名前は男が喜ぶすべを知っている。
生まれながらの美しい容姿に、貴族の娘として持って生まれた高貴な雰囲気。
それなのに どことなく妖艶で彼女の発するどこか危険な香りに、
これまで星の数ほどの男達が魅了されてきた。
『でもさー、名前 こんなテクニックどこで覚えてきたワケ?
今まで何人の男たちと寝てきたの』
「失礼ね。人を娼婦みたいに」
口ではそう言っても、名前は本気で怒っている素振りはなかった。
『フィップスとも寝たんでしょ?
どーだった、アイツは』
しばしの沈黙。
フツーの女なら、こんなこと聞かれたら逆上してもおかしくない。
けど、名前は三日月のように唇に弧を描いたかと思うと、そのままボクの背中に肌を寄せた。
「他の男なんてダメよ。
グレイより凄い人なんていないわ」
そう言って、彼女はボクの唇を塞いだ。
いままで何人の男に同じ言葉を囁いてきたのだろう。
けど、彼女の蠱惑的な瞳を見つめるうちに
そんなことどーでもよくなって、今日で何度目か分からないキスを交わした。
騙されていると分かっていながら、
名前の魅力に呑まれ、惹かれているボクも、
けっこーバカなのかも。
「穢れた空の真ん中で」
ボクだけが恋をしていた。
end.
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