雨の様な静かな水音だけが、部屋に響く。深夜の、バスルームで。
先程までイクスと行為をしていた俺は、今は一人、シャワーを浴びていた。
髪に纏わり付いた雫が堕ちてゆくのを眺めているだけで、何故だか無性に哀しくなってくる。
所詮は、独りぼっちなのだと思い知らされるから。俺はこの時間が堪らなく嫌いだった。
だが、シャワーを浴びないと匂いが付く。女の子は綺麗にしなきゃ、とアイツが言うから、
俺は寂しくても穢れを流す。

温い雫は、まるで涙のように。俺の髪、肌、睫毛の一本に至るまで、
包み込んでは滑り落ちてゆく。
先程までの行為の名残が、イクスの物が、俺の中から抜け出して、水と同化して、消えてゆく。
俺はなんだかそれが名残惜しくて、僅かに付いた粘液を指の先に絡めて弄び、それから暫くして、無表情で洗い流した。

「っ・・・・・・・・・」

弱くガラス戸を叩く。何をしても、結局、俺は一人なのだ。イクスだって、何時俺に愛想を尽かし、捨てるか分からない。
そして俺は、そうなった時を堪らなく恐れている。
頬を滑る雫は、シャワーか涙か、それが分からなくなった頃――――

「っオメガ!」

ふと、扉が開いて、慌てた様子のイクスが入ってきた。息が少しだけ上がっている。こんな時間に、どうして。

「イ・・・・・・クス?」

「よかったぁ、此処に居て。目が覚めたらキミが居ないから、ボク・・・・・・てっきり・・・・・・」

と、そこまで言ってからようやく俺を認識し、ハッと何かに気がついたように、裸の儘で、濡れている俺を抱き締めた。

「おい、お前、服―――」

「ゴメン、ごめんね。・・・・・・辛かった?」

俺が言う前に、涙声で声を掛けてくる。どうして、お前がそんな顔をするんだ、なあ。
イクスは俺が情事が辛くて泣いていたと勘違いしたらしい。違う、そうじゃないんだ。
俺はイクスの頬に手を滑らせる。

「辛くはない。・・・・・・ただ、少しだけ、寂しかったんだ。結局一人になってしまう気がして」

俺は続ける。

「でも・・・・・・そうしていたら、お前が駆け込んできた。なあ、我が儘かも知れないが・・・・・・お前が飽くまで、俺は此処に居てもいい?」

問いかける俺の声は、みっともないくらい弱虫だ。だが、そんな俺の言葉に、アイツは頷いて、

「うん・・・・・・うん・・・・・・!ずっと此処に居て、良いよ。だって、ボク―――」

その先の言葉は、シャワーの音にかき消されて、聞こえなかったけれど。
不思議と、心がぽかぽかとしてくる。歪だった俺の心は、きっと、少しずつ変わっていっている。
シャワーの音が止まる。濡れた俺の前髪を掻き上げて、イクスは優しく俺に口づけた。


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