お引っ越し
今まで活動兼生活をしていた場所が手狭になってきた為、ネオアルカディア四天王の一行は、上司、エックスの思いつきで引っ越しをすることになった。
「いやー、お天気に恵まれて良かったですね!」
ニコニコと笑みを浮かべるのはエルピス。どうやらエックスが気まぐれで呼んだ引っ越しの助っ人らしい。
いっそ清々しいくらいにこやかなエルピスに、ハルピュイアは一瞬殺意を覚えた。
少なくともこいつがやってきてから、これと言って引っ越し作業がはかどった形跡はない。
「喋る暇があったら、手を動かしたらどうだ?」
ハルピュイアは盛大な嫌みを込めてエルピスに言う。
その横では、食器を箱から取り出して棚に収納しているファントムが、小さくため息を吐いた。
「おーい、家具の設置、終わったぜ−!」
大きな声でのんきそうにやって来たのは四天王一の力自慢、ファーブニル。
頭上のねじりハチマキが、実に良く似合ってしまっている。
「ご苦労ファーブニル。ほら、貴様もちゃんと働け!」
再びエルピスを叱咤すると、ハルピュイアもため息を吐いて作業に戻った。
新しく生活の拠点にするのは、海の見える丘の上。
邪魔な物など一切無い平和な地。
仕事柄自然に触れる事が多いハルピュイアは、荷物を運ぶ手を少し休め、丘の向こうに目を細めた。
頬を撫でる潮風が心地良い。今まであまり良いとは言えない生活をしてきたせいか、こうも平和だと、何となく拍子抜けしてしまう。
喜ばしい事なのに、目の前の平和に手を伸ばすことをためらってしまう自分に、ハルピュイアは少し自嘲的な笑みを浮かべた。
―――でも、今なら。
窮屈な檻を開いた今。信頼する三人の仲間と、大切な上司の傍でなら、この平和を手にしても赦される気がした。
見上げる青い空に描かれた白い線のように、何処までも白い未来に行けたら。
ハルピュイアは静かに目を閉じた。
―――きっと、大丈夫。
丘の上から振り返る風を背に受けて、再び、瞳を開いた。
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