私が戦で死んでから、一体何度日がのぼったのだろう。
…って、そんなの解るわけないか。
なんせ、あれから何百年も経っているんだから。
「ちょっとナナシー!空見て黄昏てないで早く来なよー!」
「ナナシちゃんのこと待ってるんだからぁ」
親友と友達三人にそれぞれ呼ばれて、慌てて駆け寄る。
そうだった、合コンに行くんだった……クソめんどくさいけど。
『ねえ、やっぱり私帰っ…』
「ダメダメ!あんたの為にセッティングしたのよ?18にもなって彼氏作ったことないっていうから!」
好意を無駄にしないでよね!
そう親友に一刀両断されてしまった。
でも、私はまだ…兄さんを忘れられない。
折角死んで、兄さんに逢えると思ったのに…転生しちゃうなんて。
私は兄さんがいない世界には居たくないよ…。
「はあ、そんな陰気臭い顔しないの!絶対いい人居るって!なんせ年上だからね」
うきうきとしている友達たちを見て、やっぱり帰りたくなる。
だけど勿論、彼女達が逃がしてくれるはずもなかった…。
「まずは自己紹介しましょう!」
少し…いや、かなり高めのイタリアンレストランで合コンが始まった。
正直いまは金欠だから、こういうことは事前に教えてほしかった。
てっきりファミレスとばかり…。
相手に特に興味も湧かず、自己紹介も適当に流した所で、隣に座る親友にこっそり伝える。
『ヤバイって。私、500円しか持ってないんだけど…』
すると親友は目を見開いた。
そして、大声で言うのだ。
「ちょ、あんたバカ500円しか持ってないって、小学生か!」
勿論ここに居る者たちは私の方を見る。
そして、目の前の男共はニヤニヤ笑ってこう言うのだ。
「しょうがないなー、ここはお兄さんが払ってあげるよ。お礼は身体でいいよ?なんて」
その言葉に友達は「いやだ〜!」なんて言ってはしゃぐ。
正直、はしゃぐ理由が分からない。
ただ下品なだけじゃない。
気がついたら私は、口を動かしていた。
『結構です。ごめん、私帰る。こんな奴等と一緒の空気吸いたくない』
「な、この…っ」
私の言葉に友達は目を見開き、男共は椅子から立ち上がった。
…男共はともかく、友達は私が毒を吐くのを初めてみたからだろうか。
私のことを凝視してくる。
男共は顔を赤くし、私の胸倉を掴もうとした。
……その時だった。
「すまん、遅れ……何をしている」
「い、イタチ!このアマが…」
耳に残って離れない、この声。
イタチという珍しい名前。
そして……
「……ナナシ、か?」
私を見つめる、漆黒の瞳…。
私を見たまま固まったイタチ。
綺麗なその瞳はもう、赤く輝くことはないだろう。
でも、それ以外は昔のまま、変わらない。
『に、さん……』
今は違くても、血を分けていた兄妹。
兄さんは…ちゃんと覚えていてくれた。
「ナナシっ」
物凄い力で、でも優しく抱き締められる。
友達や男共が横で驚きの声を上げているけど、そんなの気にもならない。
ただ、兄さんの温もりを感じることが出来て…ただそれだけで……。
「ナナシ、今度の人生…昔の分まで幸せにする。だから……」
(オレに、預けてみないか…?)
それは…勿体無いくらい幸せなプロポーズ……
続・死と引き換えの誇り