「楽しむテニス?」

「そう」

三年生が部活を引退し、彼氏である精市と一緒に帰ることが日課となってきた9月。

「決勝終わったあとに改めて思ったんだ」

「ふうん…」

「そして、もう一度あのぼうやと戦ってみたい」

「そうなんだ」

精市の手術が成功してくれてほんとによかったと、最近ものすごく思う。
もし成功しなかったら精市のこんな顔見れなかったから。
私の生きる希望を取られることとなるから。

その時は信じて疑わなかった。
こんなふうに精市と一緒に歩くことが「当たり前」になるって。






「あれ?今日も精市休みなの?」

「…なまえ。少し放課後付き合って欲しいんだがいいか?」

「うん、いいよ」

普段男子について行っちゃダメって精市に言われているけれど別にいいだろう。
相手は真田だし。そう考えながら一日を過ごした。
にしても精市、大丈夫だろうか。今日で休んで2週間にもなる…。



「ついたぞ」

「ここは…病院?」

てっきり精市の家とか部活かと思えば。
そこは…精市が入院していた病院だった。

「ああ。…こっちだ」

そう言って真田はエレベーターのボタンを押した。
上の階は、入院している人たちがいる 病室だ。

「ね、ねぇどこいくの?」

「……」

「な、なんで上いくの?」

「……」

聞いても聞いても答えてくれない。
うつむいて、真田についていくと、エレベーターが止まった音がした

「ここって…前精市が入院していた部屋がある階…」

「…ついたぞ」

スタスタとすすめていた足をある部屋止める真田。そこは、以前精市が入院していた部屋。
そこのネームプレートに書かれていたのは。

『幸村 精市』

愛しい愛しい人の名前だった。
真田は、部屋へ入るよう私に促す。

「いや…いやだ!!」


「なまえ」

私が真田を押した時だった。
部屋の中から私を呼ぶ声がした。

「……せ、いいち」

「入っておいで」

優しく話す精市の言うことを無視するはずもなく。
入ることを拒否しているのに、体は自然と動く。

「よくきたね。真田もありがとう」

「う、うむ…では、俺は廊下で待っている」

「うん、ご苦労だったね、苦労をかけるよ」

「なに、お前の頼みだ。ではな」

そう言って真田が去り、沈黙が流れる。
そんな沈黙を破ったのは精市だった。

「なまえ」

「…精市」

「なまえ、なまえ、なまえ」

「…精市?」

「あのね、今から言うことを、一度しか言わないから聞いて?」

いやだ、聞きたくない。なんて言われるかわからないけど私の心がそう叫んでいる。
でも拒否はできなかった。

「…うん」

「俺の病気が…











再発したんだ」


「…え」

やっぱり、という思いとどうして、という思いがごちゃごちゃになる。
なんとなくわかっていた。ネームプレートと、真田の表情を見た時から。

「きっと神様が俺にバツを与えたんだよ」

「…どうして?」

「五感を奪っちゃうから…かな?テニスの時に。それとも、なまえを俺のもとに引き止めておくからかな?…ふふ、なーんて」

「そんな…でも…」

精市にとって辛いことなのに。
それなのに微笑んでいる精市。
そんな精市に何も言えない。

「なまえ」

今日何度目になるのかな。

そうやって精市が私を呼ぶのは。

そう思いながらなあに?と聞けば、精市が抱きしめてきた。

「でも、今の俺はなまえをこうやって抱きしめることができる。だから大丈夫、そう。大丈夫なんだ…」

そういう精市は震えていて。

「ごめん、このままでいさせて」

精市が顔を乗せた私の肩が、じんわりと湿っていくのがわかった。



「ごめんね、なまえ」

「ううん。」

「また、来てね」

「うん」

そう言って私は病室から出る。
そこには、真田が待っていた。



帰り道、真田と一緒に自宅に向かっているとき。
ついに私は感情を抑えきれなくなった。

「…ねえ、どうして」

「なまえ、」

「なんでなんでなんで!?なんで精市がもう一回病気にかかるの!?もういっぱいいっぱい苦労したじゃない!頑張ったじゃない!なのになんで!なんで苦しまなきゃいけないの!?なんで私じゃないの!?」

「…なまえ、」

「精市、楽しむテニスがしたいって言ってた。高校こそは三連覇するって言ってた。もういちど越前くんと戦いたいって言ってた!!!!なのになんで!!手術成功したんでしょ!?どうして!!!」

「なまえ!!!!」

真田に大声で叫ばれてはっとする。

「…苦しんでいるのは、一番苦しんでいるのは精市だ」

「っ…」

ねえ、神様。

何故精市ばかり辛いことにあうのですか?


再発したお話。

暗くてすみません。





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