『この地方と他の地方を通る関門の門番になってくれ。』
そう言われてからもう2年。
ずっとここにパートナーであるヨルノズクと過ごしてきましたが、何人ここに来たことでしょう。
ここを通す条件としてはテニスをして私に勝つ、というのが表向きな条件ですが、真の条件はトレーナーとポケモンがいかに心を通わせているか。
私を相手とするテニスの試合で、トレーナーが日常ではありえない危機的状態を前にしているとき、ポケモンがどんな対応をするか。ポケモンが自主的に出てくる、そんな状況があった場合のみにここを通すことを許可する、
それが私の役目ですが、そんなこと早々ありません。
“彼”もありえないことといってもおかしくないことを条件にする程本当に他の地方の人が嫌なのでしょう。
そんなことを考えながら心の中で苦笑していると今日もまた一人、やってきました。
「待ちなさい」
私の存在に気づいていなかった様子ですね。
「…番人?」
「いかにも。私は番人を勤める柳生と申します。」
そういってくいっといつもの癖で眼鏡を上げる。
「…ここを通してください」
「簡単に通すわけにはいきません。もしここを通りたければ…私とテニスをしなさい!」
「…………………は?」
やはり、思ったとおり。
ポケモン勝負で挑まれると思っていたらしく、ぽかん、とした様子でこちらを見つめています。
そんなことには気にせず、ほかのトレーナーに言ういつもの言葉を発する。
「私とテニスをして、私に勝ったらここを通して差し上げましょう!」
そう言って私はぽかん、としている挑戦者にラケットを渡しました。
「ではいきますよ…!」
「え、え、えええええつ!?」
*
「あと一回…こっちが点を取ればゲームセットです」
「っ……」
「では、いきますよ…」
「くっ……!!」
やはり予想通りの結果でした。
こちらの圧勝です。
少しつまらなかったですね…。
そんなことを考えて私はトドメを刺すことを決めました。
「レーザービーム!」
「!!」
これでゲームセットです。
そう思ったとき。
モンスターボールからポケモンが出てきた音と共に、うなり声が聞こえてきました。
そして視界の隅には、後ろから大きな閃光。
そちらを見ると、
「ペンドラー!?」
彼女が発した言葉通り、ペンドラーがこちらを睨んで立っています。
……おかしい。
ここにはペンドラーなど生息しないはず。
「……もしかして、しぃ?」
彼女のその言葉でこのペンドラーが彼女のポケモンであることが理解できました。
「今のは…はかいこうせん?」
そうたずねると、小さくうなずくしぃとよばれるペンドラー。
……素晴らしい。
体を張ってまでトレーナーを守る、そんなポケモンがいるとは思いもしませんでした。
「……たいしたものです」
彼女にはここを通る資格がある。
“ありえない”ことを実現した人間。
「主を守るために自らの意志でボールから出てくるとは…ペンドラーとあなたの絆に感動しました!!
いいでしょう!どうぞここを通ってください!」
感動した。
それは心の底から思います。
私もいつかヨルノズクとそんな関係になりたい、
そう思うほどに。
「え…あ…」
「この門を通るのは貴女が初めてです。いろいろあって大変なことがあるでしょうが、頑張ってください。あ、一応何かのために私とすぐ連絡をとれるようライブキャスターに私を登録しておきますね!」
「あ、ありがとうございます…」
どうやら予想外だったらしくおろおろしながらも、私はその瞳の奥に覚悟を感じました。
私も彼女を全力でできる限り、応援したい。
「さて、私たちの地方を冒険するならば一度柳、という男性に会っておくとよろしいですよ。ここの地方のことや、これからのことを教えてくれるでしょう」
本当は一緒についていきたいくらいですが、それは叶いません。
だからせめて、彼に出会わせよう。
これが今の私にできる最大限のことです。
「は、はい」
「では、頑張ってください。」
*
「……私も旅がしたくなりましたね」
きっとこれからもずっとそれは不可能なことなのでしょうけど。
「もし、旅ができるのならば……」
ヨルノズクと一緒に、彼女と旅したいですね。
そんなことを考えていると私の考えを読み取ったかのように近づいてくるヨルノズク。
「……たしか彼女の地方では旅立つ人の幸運を願う言葉があるんでしたっけ」
返事をするようにヨルノズクがいつもより大きく鳴いた。
「…………ベストウィッシュ、良い旅を」
この地方で人為的に起こるであろう出来事に巻き込まれないよう、祈ってます。
*
リクエストしていただいてからかなり経ってしまってすみません!!!
柳生は普段書かないのでとても難しかったですが書いてて楽しかったです!!
リクエストありがとうございました!!これからも本サイトをよろしくお願いします!!