「十四松くん、最近草野球に来てなかったけど、どうしたの?」
私は寂しそうに笑う十四松に話しかけた。
今日も二人で、公園のベンチに座ってお弁当交換している。
「もしかして、私の作ったお弁当、お口に合わなかった?」
「そんなことあるかーい!!」
お笑い芸人にツッコミを入れるように、十四松が元気よく私に反撃した。
ちょっと痛い。
「ハッスルハッスル!マッスルマッスル!いただきまーす!」
十四松は答えない。ただ元気にお弁当を食べているだけだ。
私は十四松が弟さんとつくったというベーグルにジャムを乗せて食べている。
十四松はどんどん料理の腕を上げていく。
「ね、十四松くん、彼女でも出来た?」
私が零したこの言葉に、一瞬、十四松が固まる。
少しさみしそうに、それでも笑顔で彼は言った。
「居たよ。両想いだったけど、彼女とはお別れした。」
ああ、いけないことを訊いてしまった。私はそう思い、ごめんねと言いかけたが、
「でも!いまのおれには草野球がある!チロルちゃんのお弁当もある!
塞ぎこんだらまたあの子が悲しむから悲しまない!
たくさん泣いたけど、今は兄さんたちも、チロルちゃんもいる!だから、寂しくない!」
まるで自己暗示のように、十四松は明るく言って、お弁当を頬張った。
「ねえ、十四松くん。またパン作ってきてくれない?いっしょにキャッチボールしよう。」
私も笑って言ってみた。
すると、十四松はパアア、と笑顔を咲かせ、言った。
「チロルちゃん、野球好き?」
好きだよ。十四松と仲良くなるために、野球も料理も勉強中だもん。
私はその言葉を飲み込んだ。
「親友、って、こんな感じなのかな。普段は兄さんたちにばかり頼っていたから。」
静かに、広く青い空を見上げながら、十四松は言った。
私は、そっと、ハンドタオルを渡した。潤んだ声で十四松はこういった。
「ありがと、チロルちゃん。」
「せっかく親友になれたんだもの。帰りにコロッケ奢るよ!」
「……え?!コロッケ?!」
「親友記念。商店街の肉屋のコロッケ、すごくおいしいんだけど食べたことある?」
「ない!!」
じゃあ、お店まで走っていくよ!
と、いきなり走り出す十四松が愛おしかった。
どうやら、前向きに考えていてくれているようだった。