「満月先輩は本が好きなんですか?」

「…うん。本を…読んでいると落ち着くから…」

「なんか、先輩らしいですね。」



もっと近くに



ある昼下がり。
特に課題も無く、暇をもてあましたわたしは図書館で借りた本を手に取り大好きな場所へ出かけた。
そこは、大きな木があっていい感じに木陰ができる。
わたしのお気に入りの場所だ。
ここで存分にゆっくりと本を読もうと、わたしは本を開き物語の世界へ思考を飛ばした。
一通り読み終わり、ふと顔を上げると良く見知った後輩がわたしを覗き込んでいた。



「梓くん…?」

「はい。こんにちは、満月先輩。」

「…いつからここに居たの?」

「10分くらい前…ですかねー。先輩、本に夢中で全然気づいてくれなくて、僕寂しかったです。」



梓くんは、そうやっていたずらっぽく笑う。
その顔が優しくて、わたしはあったかい気持ちに包まれた。
本をそばに置くと、梓くんもわたしの隣に腰を下ろした。
梓くんの傍はあったかくて、とても心地よい。
だから、この場所も好きだけれど。
それより彼の隣が好きなの。



「…本に、夢中で…」

「先輩らしいですね。でも、僕は先輩が本を読んでるの見るの好きですから全然問題ないんですけどね。」

「…なんで?」

「満月先輩って、本を読んでいる時が一番いい表情をしているからです。」

「…そう…かな?」

「はい。」



梓くんは自信満々にそう言って笑う。
なぜだかそれが嬉しくて。
わたしはそっと梓くんの手の上に自分の手を重ねた。



「梓くんに…そう言ってもらえるの…嬉しい。」

「そう言ってもらえて良かったです。満月先輩、良かったらさっき読んでた本の内容教えてもらえませんか?」

「…うん、いいよ。」



手を重ねたまま、わたしはさっきまで読んでいた本の内容を語る。
梓くんは嬉しそうに話を聞いてくれた。
それが幸せで、わたしの語りにも熱が入っていく。
やさしい彼の隣で、もっと物語を語っていきたいな。



end


2011.12.27






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