クリスマス(2019)




真っ白な雪が降り続いている島、ここの島ではこの時期クリスマスというイベントがあるらしい。
たくさんのご馳走に、豪華なケーキ、そしてプレゼント。

「仲間全員を代表して、イルミネーション大会出場の許可をもらいに来ました!」

ハートイベント帳を片手にイルカが嬉しそうに言った。シャチは町から持ってきたのであろう、大会のチラシをキャプテンの目の前に出している。

ちなみに私は廊下で歩いていたらシャチに捕まり、引きずられるようにして船長室へ連れてこられた。
その船長室では、ペンギンさんとキャプテンとベポが海図を眺めながら話し合いをしていたところ。

「わぁー!おれもやりたい!」

無邪気に喜んだのはベポだ。
私はなぜ連れてこられたのか知らないが、シャチに肩を抱かれているため逃げることも出来ない。

「ナマエもやりたいよな?」
「…」

あ、このために連れてこられたのか。
私の意見はキャプテンには響かないと思うぞ、シャチ。
それに別に私はそんな大会なんて…と思ったが、ベポのキラキラ輝く瞳を見ていたら私の心は折れた。

「その大会私もやりたい!!」
「だよな?!さあ、キャプテンも参加でハート全員で船を装飾しましょーよ!!」
「やらねェよ。んなめんどくせェこと」

シャチとイルカが私の肩を引き寄せて3人で円陣を組んだ。その中で声を潜めて作戦会議を行う。

「キャプテンならあーやって言うと思ってお前を連れてきたんだよ」
「私の意見がキャプテンに届くとでも?無理に決まってるでしょ。この船ではキャプテンが絶対だよ?キャプテン命令されるの大嫌いだし」
「お前少しは色気でどうかするとかねぇのかよ」

ボソボソと作戦会議をしていたが、チラリとキャプテンを盗み見た。
ソファの背もたれに腕を乗せて、私と目が合った。
すぐにその目から反らせて再び円陣へ。

「無理無理。キャプテンの目を見たらさっさと出て行けって目してたよ」
「くそ…一回退出して作戦練るぞ」
「おい、エントリー締め切りまであと一時間しかないんだぞ。ここで許可取らないと…」
「一時間?!よし、お色気作戦やってみる!」

私は意を決して、2人から離れるとキャプテンの目の前へ立った。
ペンギンさんもベポもハラハラとしながら見ているのが分かるけど、これで不機嫌になったらすいませんとしか言いようがない。

「許可してくれたらなぁーんでもしてあげますよ?」
「あ?…何でも?」
「雑用でも、トイレ掃除でも、お風呂掃除でも、船長室の床掃除でも」
「どこが色気なんだよ!ただの清掃員じゃねえか!!」

シャチのツッコミが聞こえてきたけど、これが私の精一杯だ。大体、こんなにみんなの居る前でお色気なんて出せるはずないでしょーが!

キャプテンの顔はまだ無表情だ。

そこでイルカが思い出したように顔をあげ、船長室を飛び出して行った。
全員で首を傾げ、しばらくしたら息を切らせたイルカが1枚の服を広げてキャプテンに見せた。

「許可してくれたらこの服をナマエが着てくれますよ!」
「え?いや、ちょっと待って待って!」

その服は赤いミニスカートのワンピースに、フードが付いていて、あちこちに白いふわふわのボアが付いている。

「何それ!」
「ミニスカサンタらしい。ここの島に売ってたのを買った」
「ヘェ…なら許可してやる」
「あざーっす!!」
「あ!ちょっと!!私は許可してなあーい!!」

逃げるように立ち去ったシャチとイルカの後を追うために、失礼しましたと挨拶をして船長室を出た。
逃げる2人のうち、シャチを捕まえて睨みつける。

「そんな条件私は聞いてない!しかも、そんな格好絶対にしないから!!」
「まあまあ。ほら見てみろ、このチラシ」

シャチが私の目の前にチラシを出した。
イルカはすでに走って逃げた後で、エントリーをしに島へ降りたらしい。

チラシを読めば、船をイルミネーションで飾ってどこが一番綺麗か競うらしい。海賊も参加可能。戦闘は厳禁。
優勝した船は全員でイルミネーションを一望できる展望台へご招待。

「な?展望台行きたいだろ?」
「めちゃくちゃ行きたい」
「決定!まあ、服のことならキャプテン忘れてくれるかもしれないし」
「…キャプテンの記憶力いいのは知ってるでしょ?」
「おう!人の言った言葉の一言一句もらさず覚えて…」

シャチの言葉に私はガクッと膝をついた。

「私を貢ぎ物のように…」
「ま、まあ、飾り付け頑張ろうな?」







本日のハートのクルーは全員で甲板に出て、色とりどりの電飾や飾りをあちこちで取り付けている。
指示を出しているのは言い出しっぺのイルカとシャチ、それとノリノリになったペンギンさんだ。

「キャプテンキャプテン」
「何だよ」
「“タクト”で私を浮かして下さいよ」
「あ?おれの能力をそんなくだらねェことに使うわけねェだろ」

私の隣で壁に背中を預けて立っているキャプテンにダメ元でお願いしたが、やっぱりダメだったか。
仕方ない。

私は他のクルーと同じようにマストによじ登ろうとして、視界が変わった。
ここは先程まで私が居たキャプテンの隣だ。

「キャプテン。私がして欲しいのは“シャンブルズ”じゃなくて“タクト”ですって」
「てめェは登るんじゃねェ。落ちるだろうが」
「だから能力お願いしますって」
「おれに命令するんじゃねェ」

ダメだ。今度は手すりに電飾を巻きつけていくために手すりに跨った瞬間に再び視界が変わった。

「もー!!邪魔しないでくださいよ!」
「いつも言ってるけどな。てめェは能力者の自覚がねェのか」
「キャプテーン!これあそこに取り付けたいんですけどー!」
「ほら!出番ですよ!!さあ、私を浮かせてください!」

キャプテンに詰め寄ると諦めてくれたのか、盛大にため息をついてROOMを展開させた。

「“タクト”」
「わわっ!やったあ!」

私がシャチから高いところに取り付ける電飾を受け取ると、そこまで飛ばせてくれて取り付けた。上の方は更に冷たい風が吹いて、私の指先がどんどん冷たくなっていく。

「うう…寒い」

かじかむ手で電飾を取り付けると、途中まではフワフワと下ろしてくれたのにもうすぐで降り立てるというところで、甲板の上に勢いよく叩きつけられた。

「うぎゃっ!」

どっとクルー全員の笑い声が船に響き、キャプテンも楽しそうに笑っている。
私を笑いのネタにするのはやめてほしい。







夜になり、キラキラと色んな船が輝ける中。
私たちの船もすごく綺麗で甲板の上で宴をすることにした。
この際、もう優勝かどうかも気にならないぐらいにお酒が入り、宴は盛り上がる。

「キャプテン!ここらでナマエにサンタになってもらいましょう!」
「あ?ああ、あの恰好か」
「するわけないじゃないですか!」
「あの恰好は後でおれの前でさせる」

イルカめ!余計なことを言って!
私が嫌そうな顔をしていると腰を強く引き寄せられた。

「心配しなくても忘れてねェよ」
「心配してません!」
「昼間、このおれを使ったんだからそのお礼をしてもらわねェとな」
「それなら全員が対象じゃないですかぁ」
「だが頼んだのはお前だ」

ダメだ。キャプテンに口で敵うわけがない。
私は諦めて、逃げるようにキャプテンの元を離れて騒ぎの中に紛れ込んで行った。

パラパラと甲板で眠るクルーをペンギンさんが起こしながら中へ連れて行くと、私も毛布に包まりながら頭をぐらぐらさせながら眠気と戦っていた。

「大丈夫か?部屋行くか?」
「んー、イッカク連れてって」
「はいは…あ、キャプテン」
「そいつはおれが連れて行く」

イッカクに抱えられる直前にキャプテンが私を抱えた。
私はキャプテンの首の後ろに両腕を回して体を預けると、ペンギンさんが駆け寄ってきた。

「キャプテン。なんか知らない間に優勝してたみたいで、よければナマエと行ってきてください」
「こんな酔いつぶれてる奴を」「行きます!大丈夫です!」

一気に酔いが覚め、瞑りそうだった目を見開いて床に両足をつけた。

「…分かった」
「やったー!!いってきまーす!!」

キャプテンの腕に両腕を絡めると、毛布を掴んだキャプテンが能力を使いながら素早く移動し、あっという間に展望台へやってきた。

街からも少し離れている展望台からは様々な船の装飾が見え、夜の海を明るく照らしていた。その中でも確かに目立っている私たちの船。装飾だけでなく、甲板の上で宴をしていたため、さらに賑やかに見えたのだろう。

展望台の頂上にはご丁寧に柔らかいソファと毛布まで置いてある。
雪はもう降っていないが、やはり気温は低い。

「すっごい綺麗ですね…静かだし…」
「…確かにすごい景色だな…」

本当はクルー全員でここに来ようと思っていたのだが、キャプテンと二人きりのこの雰囲気も…これはこれで良かったのかもしれない。

お酒もなくて、じっと座っているだけだからか体がぶるっと震えた。

「キャプテン、くっついでもいいですか?」
「来い」

両手を開いてくれたキャプテンの腕の中に入り、私の体ごと毛布で包まってくれた。

「はー…なんか私だけこんな幸せでいいんですかね…」
「お前だけじゃねェよ」
「へ?」

鼻で笑ったキャプテンのカッコいい顔が近寄ったかと思えば、私の唇に触れるようにキスをされた。キャプテンの唇は暖かくて、思わず熱を奪うようにキャプテンの服を引っ張って引き寄せた。

リップ音を鳴らせて、ゆっくりと離れるとコツンと額と額が当たった。

「キャプテン、ハッピーメリークリスマス!」

そう言って私はニッコリと笑った。





Happy merry christmas!!



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