ハロウィン(2019)




小さな島で物資と燃料の調達が終わり、町での情報収集も充分行えた。
ログがたまる2日のうち残りの一日が自由行動となり、3日目の朝に出向するとキャプテンからのお達しで全員が歓喜した。
そして、町中で情報をとってきたウニさんが食堂でみんなにハロウィンというイベントについて話し始めた。

「何か明日は仮装をして、お菓子をもらう日らしい」
「仮装?」
「何でもいいらしいけど、トリックオアトリートっつって悪戯かお菓子かって」
「んじゃ、船で開催しよーぜ!!」

シャチの言葉でそれぞれが午前中に衣装を準備することとなった。
夜から宴会しながら始まるらしい。
私は無難にナース服を買って、お菓子の飴玉を購入しておいた。

夜、シャワーを浴びた後に買ったナース服を着込んだ。
膝上のナース服にストッキングを穿いて、いつものスニーカーを脱いでナースサンダルを履く。
ピンでナースキャップを固定し、鏡を眺めるとどっからどう見てもナースだ。
飴玉をポケットに全て詰め込み、みんなが集まっているだろう甲板を目指した。



「おまたせー!あ、シャチはミイラ男か!」

私が甲板に出た瞬間に一斉に静まり、私は周囲を見渡した。
ミイラ男にゾンビ、フランケンシュタインに…え、キャプテンは白衣ってそのまんまじゃん。
聴診器を首にかけようとしたのに医務室にないと思ったらキャプテンが首にかけていたのか。

おおーっと大声が上がり、私は肩を揺らして驚いた。

「ナース最高!」
「うおおお!手当してくれー!」
「お世話頼むぞー!」

何で興奮してんのか知らないが、あの合言葉は全く使われない。
仲間の輪のもとへ駆け寄ろうとしたら一瞬で視界が変わった。

「ナマエ」
「え、あれ?キャプテン」

キャプテンの能力によってキャプテンの膝の上に移動させられたことに気が付き、顔を上げるとキャプテンの隣に座っていたニヤニヤしているペンギンと目が合った。
反対側に座ってるベポが「わあ、可愛いねぇ」なんてほのぼのとさせられることを言っていたがすぐに膝から退こうとした。
しかし、その腰を掴まれて再びキャプテンの膝の上に座らされる。

「キャプテン!は、離して下さい!」
「…」
「キャプテン?」

恥ずかしさで赤くなり、周りの仲間もひゅーひゅーと囃し立てられて涙目だ。
後ろを振り返ってキャプテンを見上げると、キャプテンが私の顔を見て溜息をついた。

「お前、誘ってんのか」
「っ!そんなわけないじゃないですか!ちょ、近いですよ!」

すでに他の仲間はお酒を飲み始めてこっちを見ている人は居なくなり、ペンギンもベポもその騒ぎの中に入っていった。

私は諦めて、目の前にあるフルーツを食べることに。
ブドウを一つまみ取ると、キャプテンの口元に持って行った。

「食べます?」
「ん」

素直に口を開けて食べてる姿があまりにも可愛くて、私はすぐにもう一つ取ろうと手を伸ばした。
しかし、それより早くキャプテンの長い手が掠め取ってブドウは私の口元に当てられた。

「ほら、口開けろ」
「ん。ありがとうございます」

お酒ももらって、もはやただの宴になっているが、これも予想通りだ。
私の飲んでいる果実酒がなくなり、キャプテンのコップにお酒を追加すると、私のコップにもキャプテンのお酒を注いだ。
だいぶアルコールが強そうだけど、何も飲まないのも寂しい。

「お前には強い」
「ま、今日ぐらいは大目に見てくださいよ。キャプテン」
「…吐くまで飲むなよ」
「気を付けます」

口の中に入ったアルコールは思ったよりも強く、これだと早々に酔いそうだ。
そう思いながら仲間たちの喧騒を笑いながら見つめた。







アルコールが回って来たのか少し眠気が出てきた。
ウトウトし始めると、キャプテンに持ち上げられペンギンさんを呼んだ。

「おれ達はもう部屋に戻る。全員、羽目を外しすぎるな」
「あー!もうせんちょーったらまたおれらのナース独り占めにするつもりっすかー」
「せんせー!もうねちゃうんすかー」
「…ペンギン。あの酔っ払いどもにもう飲ませるな」
「アイアイ」

ゆらゆらとキャプテンの腕の中で揺られている感覚が気持ちよくて自然と瞼が下りてくる。
完全に落ち切る前に、結構乱暴にベッドに降ろされるとその衝撃で目が覚めた。

「ぎゃっ!ちょ、キャプテン、乱暴すぎますよ」
「おかげで目が覚めただろ」
「寝かせてくれるために連れてきたんじゃないんですか」

周囲を見渡すと船長室だ。
聴診器を置いたキャプテンが意地悪そうな笑みを浮かべている。
あ、なんか嫌な予感がする。そう思ってももう遅かった。
私の上に乗りかかり、キャプテンの帽子がベッドサイトに置かれた。

「Trick or Treat」
「へ?あ、ああ。飴…あれ?」

ポケットに大量に詰め込んでいたはずの飴玉が一つもない。
ごそごそと白衣のポケットを漁っていると、太腿を撫でられる感触がして体が震えた。

「ちょっ、ま、待って下さい!」
「ねェんだろ?そしたら悪戯だな」




HAPPY HALLOWEEN!!


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