リング戦編

 雲雀とお揃いの指輪がはまった指に視線を落とす。決して甘い意味などない指輪を捨ててしまいたい衝動にかられるがそんなことをしたらあの赤ん坊に殺されるだろう。――目を閉じると、頭の中に声が響く。

『クフフ、いよいよ今日があなたの出番ですね』
「戦闘は得意じゃないのよね」
『そのときはいつでも僕に代わってください』

 頼もしい言葉なのだろうが、私には全く有り難くない申し出だった。今までも何度か骸と入れ代わったことはあるが、骸が好き勝手に暴れるせいで次の日に酷い筋肉痛になるのだ。まがりなりにも女の子の体なんだからもっと大切に扱って欲しい。

 並盛の体育館に繋がる扉を開くと私に注目が集まるのを感じた。質屋で安く手に入れた杖を両手で持ちリングに立つ。(幻術を使うときに必要だからと無理矢理杖を買わされた)

「ヘンリーさん! どうしてこんなとこに!?」
「こんばんは、沢田。……まあ、成り行きってやつよ」
「女の子が危ないよ! ……リボーン! お前のしわざだな!」
「強い奴をファミリーにするのは当然だろ。あまっちょろいこと言ってんな」

 背丈ほどある杖を上手く扱えず手こずっているうちに相手が仕掛けてきた。「十代目の足を引っ張るなよ!」という野次ともとれる声援が飛んできたが、ニヤリと笑う彼は赤ん坊とは思えないほど高度な幻術を使ってきて氷の中に崩れ込んでしまう。誰かの悲鳴が響いたが、まあ、これくらいなら予想の範囲内だ。

「なかなかやるね」
「あなたもね。……ちょっと私にはキツいわ」
「そんなに弱気でいいのかい?」

 攻める手を緩めることのない赤ん坊にあっさりと負けを認め私は早々に引っ込むことにした。クハハハという笑い声が頭に響く。
 そこからは骸の戦いを見守ることはせず自分の奥深くに潜り込んで休むことにした。

 次に私の意識が戻ったとき、犬と千種に抱き締められていた。どうやら骸は見事に勝利をおさめたらしくボンゴレの表情は明るい。
 さっさと帰ろうと言うように腕を引っ張る犬に頷いて、声をかけてくる沢田や山本に手を振ってから千種と三人で例の廃墟まで帰った。

「骸様はなんか言ってるびょん?」
「犬、ヘンリーに触るな、って言ってるわ」
「骸様、ヘンリーのこと大切にしてるね」
「そうかしら? ……ほら、ご飯よ」
「やった! いただきます!」

 出かける前に作ってきたタッパー詰めの肉じゃがとご飯をテーブル代わりのダンボールに乗せると真っ先に犬が飛びついた。千種もダンボールの前に座り食事にありつく。

「じゃあ、帰るわね。タッパーはいつものように洗ってちょうだい」
「送ってこうか?」
「ううん。雲雀のとこに寄るから」
「あんな奴のとこ行く必要ねーって!」
「雲雀もあなたたちと一緒で、ご飯をちゃんと食べないのよ。餓死したら目覚めが悪いから」

 明日の朝の分の食料を適当に置いて雲雀への手土産の入ったトートバッグを肩に掛ける。廃墟から少し離れたところで修行をしている雲雀を訪ねると「勝ったの?」と聞かれたので頷く。肉じゃがを渡すと雲雀は機嫌を良くしたので帰ろうとしたのだが修行相手であるディーノさんに呼び止められる。

「俺の分まで悪いな」
「雲雀だけに渡すわけにはいきませんからね」
「ハハッ、気を遣わせて悪いな。サンキュ」
「どういたしまして」

 今度こそ帰ろうとしたのだが、雲雀に腕を掴まれ足が止まる。

「今日はここにいなよ」
「嫌よ、ベッドで寝たいもの」
「いいから。帰ったら、咬み殺す」
「……」
「それは脅しって言うんだぞ」

 私の肩に手を乗せたディーノさんの腕を目掛けて雲雀がトンファーを落とす。華麗に避けたディーノさんに続けざまに攻撃をしている雲雀を横目に、仕方なく今晩は彼らに付き合うことにした。

120804
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