イタズラに追い討たれ


目の前に広がる真っ白な天井と視界の隅で揺れる明るい茶髪に、ぼんやりとしていた意識が一瞬でクリアになって私は勢いよく飛び起きた。

保健室の匂い。レース。掛け布団。ベッド。
さっきまで銃弾を受けまくっていたとは思えないほど静かに流れる空気にホッと息を吐いた。
そして私のすぐ隣で身を固くしている夜久と目が合った途端の衝撃はまるでお化け屋敷のそれに匹敵すると感じた。

「やっ、やや……やー!!」
「芸人かよ。ナニ倶楽部だよ」
「なんで、夜久が、私も何で!」
「さっき思いっきり後頭部打ってたから保健室連れてきた。……大丈夫?」

確かにちょっとジンジンしてたんこぶみたいなのも出来てるけど……大丈夫だと返すと夜久は少しだけ安心したように優しい顔をして、次にはまた硬い表情で俯いてしまった。

気まずそうなその様子を見ていたら、後頭部を強打する寸前まで遠慮なくぶち込まれた銃弾の数々が、思い出したように熱を持ち始めて目眩がした。
今すぐにでも海のもとへ駆け出して問い詰めてやりたいところだけど、今この場所に夜久と私の二人だけでいるってことは……そういうことなんだろう。

「さっきはごめん。アイツ俺の部活の後輩で、全然人の言うこと聞かない奴で」
「夜久が謝ることじゃないよ全然。それに私は大丈夫……だし。うん」
「…………」
「…………」

……ただただ気まずい。流れる空気の重さに圧死寸前だった。
頭の中ではあのリエーフくん?の言葉が未だに瞬速で駆け巡っていて、『一年の頃から気になってる』の辺りなんかの攻撃力は衰えることを知らない。
だって私が夜久を好きになったのは二年の後半くらいからで、それよりもずっと前から夜久は私を気にしてくれていたってことになる……よね。

多分あの話は紛れもない本当の話なんだと思う。
リエーフくんのも海の言葉も、夜久の気持ちだって……全部。
夜久には私の気持ちもきっと、というか絶対気づかれてるんだろうな、と思いながらチラリと目を向けると大きな瞳もこちらを見ていてドキリとした。

「……アイツに言われなくったってちゃんと伝えようと思ってたよ」
「へっ」

低く囁くようなその声はいとも簡単に私の心を擽って。
その真剣な眼差しは私の鼓動を震わせる。

「一年のとき、教科書借りに海のクラスに行ったらアイツの隣に座ってたのが名字で、友だちと話して笑ってるとこ見てからなんか気になって……いつの間にか目で追ってた。同じクラスになれた今でも変わんない」
「や、く」

「ずっと名字だけ見てた。ずっと……名字が好きだった」

その一言が胸めがけて放たれることは始めからわかっていたのに。
今か今かと身構えていたにも関わらず、ただ真っ直ぐに飛んできたその矢はもはや虫の息の心臓に大きな音を立てて、命中した。

甘い衝撃が指の先まで余すことなく伝わっていく。
夜久の真面目で硬い顔は真っ赤になっていて、見ているだけでこちらにまで伝染してしまうほどだ。
それでもずっと向けられたままの視線は力強く、それでいて静かに私の言葉を待っている。

「私も……です」

ドキドキしながら紡いだのは精一杯の思いだったのだけど、夜久は少しだけ間を置くと私のいるベッドに片手をついて身を寄せてきた。

「私も、何?」
「えっ」
「ちゃんと言え。聞きたい」

吐息混じりにそう言われて赤くならない方が無理だ。
夜久の目にも熱がこもっている。指先が控えめに私のに触れた途端にきゅっと握られてしまえばもう、抗えるわけがなかった。


「……好き。夜久が好き、です」

つーかなんで敬語だよ、と吹き出す夜久の顔は照れくさそうにほころんでいる。
甘くて苦しくて、どこかくすぐったいこの空間でどうしようもない幸せに浸っているとベッドがぎしりと軋む音がして心臓が跳ねた。

夜久の真剣な顔が近づいてくる。
何をしようとしてるのか、だなんてわざわざ考えなくたってわかる。
目も鼻もすぐそこにあって、大きな瞳がそっと伏せられて。

……キスされる。同じように目を閉じたその瞬間に低く響いた音に私は慌ててお腹を覆った。

「今の」
「ご、ごめん」
「ははっ。弁当まだだもんな。まだちょっと時間あるし、戻って一緒に食お」
「……う。うん、食べる!」

なんでこんなタイミングで鳴っちゃうのか……と自分のお腹を恨めしく思うも、ここはまず実ると思ってはいなかった片思いが上手くいったことに感謝しなくては。

上靴を履いて立ち上がろうとした時にふと夜久に名前を呼ばれて顔を上げた。その瞬間。
視界いっぱいに夜久の顔と唇を掠めた柔らかい感触。
私に触れていたそれがそっと熱を置いていくのを何も言えずただ見つめていた。


「……スキあり。なんつって」


それは本日二度目のキャパオーバー。
パチパチと回線がショートしている私の手をするりとかっさらった夜久は、ほんのりと赤く染まった顔でイタズラに笑ってみせた。

(おっ、やっと出てきた)
(その顔は上手くいった顔だな)
(夜久さんスキありって何ですか?なんでそんな顔赤いんですか??)
(リェェェエエフッッ!!)


end.
2018/09/02
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
大変長らくお待たせ致しました!
ちゃっかり海も来てる。そして聞いてる。
前作終盤の「甘くて優しい最後の一撃」が無駄にハードルを上げちゃって自分の首を絞めたという……!
それにしても今企画の盗み聞き連中の多さよ。(笑)
リクエストありがとうございました!
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