ふいうちクリーンヒット


「あのっ、俺のこと覚えてますかっ?」

春高初日。東京体育館という晴れ舞台を前にナンパする人なんているんだ!?と振り返ってみて思わぬ人物に驚いた。

「え、あおくん!?」

彼、姫川葵くんは私が宮城に引っ越してくる前に通っていた小学校のひとつ下の男の子。
すっかり背が伸びちゃって体も引き締まっちゃってるけど「よかった、覚えててくれた」と笑う顔は全然変わってない。

「えーっ、あおくんがまだバレー続けてると思ってなかったからびっくりしたよ。何年ぶりかなぁ?会うの」
「俺が4年生のときに名前ちゃんが転校しちゃったから6年ぶりかな」
「もうそんなになるんだ!そりゃあおくんも大きくなるよね。すっかり抜かされちゃったなぁ。何センチ?」
「えっと、173センチ」
「成長したね〜〜っ!」

へへ、と照れくさそうに鼻をかくのが可愛いらしくて母性本能がくすぐられる。
相変わらずのパッチリ二重が可愛いなぁ。自分から声をかけてきたのに少しモジモジしてるところとかちっちゃい頃を思い出すなぁ。

そういえばどこの高校に行ってるの?と聞こうとした私の声は「姫川ー!」と彼を呼ぶ太い声にかき消されてしまった。
あおくんは慌てて返事をすると改めて私に向き直って何か言葉を選んでいるようだった。

「あの、名前ちゃんっ」
「うん?」

「俺レギュラーじゃないんだけど、でも……もし万が一ってことがあったら……み、見てて!」


耳まで真っ赤になったあおくんの頭をわしゃわしゃしたい衝動に駆られたけど、ぐっと堪えて「勿論!応援してるね!」と返せば満足気に笑ってチームメイトの元へ走っていった。

今の誰だよおい〜と部員にもみくちゃにされてる姿さえも可愛くて目で追っていると、後ろから軽く頭を小突かれた。キャプテンだ。

「あっ、すみませんキャプテン。懐かしくてつい」

キャプテンは私の方には目もくれず、あおくんの背中に目線を向けたまま「知り合いか?」と聞いてきた。

「宮城に来る前よく一緒に遊んだんです。親同士も仲が良くて。どこの高校かは聞いてないんですけどまさか今でも続けてるなんて……」
「……一緒にいたのは多分椿原学園のやつらだな」
「えっ!?つばきはら、って一回戦目の椿原ですか!?」
「その椿原だよ」

まさかあおくんがあの椿原学園の選手だったなんて。
勿論だよ、なんて言っておきながらもタイミングが合わないと中々難しいなーと思っていたけどこれなら間違いなく見ることになるな。

……もしかしてあおくんは私が烏野だということを知ってたんだろうか?
んん、と頭を悩ませているとキャプテンのジト目が私を向いていて反射的に姿勢を正した。

「……うちのマネージャーはよその部員様を応援されるようで?」
「ヒッ!?すみません、あおくんが相手チームだなんてちっとも思ってなくて!」
「あおくん、ね」

(お、怒っていらっしゃる……!)

キャプテン、ニコニコしてるけど全然笑ってなくない!?
すぐさま他の人に助けを求めたけどみんなは音駒の人たちと合流してたみたいで、私たちの会話になんて気づかないほど盛り上がっている。

「も、勿論応援するのは烏野ですよ。念願の大舞台ですし何より私も烏野なんですから!えいえいおー!」
「へえ?」
「キャプテ〜ン!そんなに怒らないでくださいよぉ!」
「別に怒ってないけど?」

そう言って笑ってるつもりでも全然笑えてないし、寧ろ黒笑いになっちゃうキャプテンを見るのは初めてではない。
そしてこういう場合どうすればいいかを私は知っている。

他の部員なら距離を置くところを内緒話ができるくらいまで詰めて背伸びをする。
一瞬たじろいだキャプテンへ間髪入れずにもう一押し。


「……私が誰よりも応援してるの、大地さんなんですからね?」


目を丸くして固まったキャプテンが動きを取り戻した数秒後。

「っ、からかうのもいい加減にしなさい!」
「いたッ!!痛いですよもーキャプテーン!」

頭頂部にくらった衝撃はそれなりに痛かったけど、ズンズン進んでいく背中はもう全然怒ってないし赤くなった耳も拝められたので結果オーライだと思います。


(スガさん、この間教えてくださったアレ試してみました!)
(効果覿面だったので今後もよろしくお願いします!)
(な?言ったべー?大地は絶対ああいうのに弱……ウソ、嘘だって待って大地待って)


end.
2019/03/05
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
大変長らくお待たせして申し訳ありません……!
姫川くんあんな可愛いのに当て馬とか可哀想。
「スガさんに慰められたい」がどうしてもストーリーに組み込められず二人で悪?巧みな形に。すみませんッッ!
リクエストありがとうございました!
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -