大好きだよって伝わった?


人生というものは何が起きるかわからないものなんだな、とカレンダーを見ながら思う。
あんなにも苦手意識を持っていた月島くんをまさか好きになるなんて夢にも思っていなかったし、更には相手にも好かれることになるなんて、当時の私が知ったら卒倒するかもしれない。

この一か月を彼氏彼女という関係で過ごしてみてわかったことがある。
彼の性格があまり良いものじゃない件、これは紛れもない事実だ。彼女と名のつく人物にはうんと甘くなったりするのでは?とこっそり実証してみたことがあるけど、月島くんはいつまでも月島くんだった。
でも時々デートにも出かけたり一緒に帰ったりして思うのは、口の悪さは変わらないにしろ、彼の根底にある好き≠ェ伝わらないわけじゃないということ。

言ってしまえば、あれだけ嫌だった彼のそのままの部分を、私はまんまと好きになってしまったんだなぁ、と。


部活が終わったであろう時間を見計らって部室棟へと足を向かわせると、何故かひどくぐったりとした月島くんが出てきた。
練習がハードだったのかと思えば、そうではないのか、後を追うように部室から飛び出してきた元気いっぱいの日向が私の名前を呼んだ。

「みょうじさん!月島に何か嫌な思いさせられてない!?」
「え?」

突然そんなことを言われ首を傾げてしまった。
月島くんに目で助けを求めるも、珍しく憔悴しきっていて助け舟は出されない。


「一か月も月島みたいなヤツのカノジョ続けるの、しんどかったでしょ!?何でも言って!相談乗る!」
「えーっと、ありがとう?」
「ツッキーはちゃんとみょうじさんのこと大事にしてるよ!こう見えてみょうじさんが大好きなんだよ!」

日向に続いて飛び出してきた山口くんが声を大にして訴えるその姿を見て、月島くんの表情の意味を理解した。

言い返す余力は残っていないようで、二人には目もくれずに私の元まで来た月島くんが「行こう」と促す。
遅れてゾロゾロと出てきた部員の人たちが私に気がつくなり、あっ、と目を丸くしたので軽く頭を下げた。

「今日で付き合って一か月なんだってなー。おめでとう」

泣きぼくろのある優しそうな先輩が声をかけてくれた。

「あ、ありがとうございます」
「せっかくの記念日なのにこんな遅くなっちゃって悪いなー」
「いえ全然!お疲れ様です」
「確かに部活は大事だけど!そうやっていつも色々ガマンしてるんでしょ!良くない!」

会話に割り込んできたのは日向だ。
彼の中の月島くんのイメージは人類最低レベルなんだな、と思ったらついこの間までの私を思い出させた。
こっそり笑うと月島くんに睨まれた。バレている。

「こら日向、あんまりそうやって勝手に決めつけるの良くないぞ」
「キャプテン!だって!月島の奴が一か月記念日とかどうでもいいって言うから!」

これにはギョッと隣の彼を見上げた。
どうでもいいとは何事だ?月島くんは私の視線にもうんざりしたように口を開いた。

「たかだか一か月こういう関係が続いたってだけで記念日だって騒ぎ立てるのはどうかしてるでしょ。理解できない」
「そういうとこ!!みょうじさんが可哀想!!」


そうか、そうだ。
相手はあの月島くん。一般的な恋人同士が一か月記念日をどう過ごすのかは知らないけど、彼が「付き合って一か月だね、おめでとう」と言う姿は想像できないし、プレゼントを渡してくれたりだなんて普通に考えてありえない。

ただ、これからもよろしくね、くらいは言い合ったりするものかなとは思っていたから、さあ。


隣から深くて大きなため息が聞こえた。


「たかだか一か月じゃん。これからずっと一緒にいるってのに、そんなんでいちいち祝ってたらきりがないって言ってんの」


瞬きすら忘れた私をひと睨みして、月島くんは「行くよ」と前を歩く。
両手で口を覆って目をキラキラさせた先輩、山口くん、その他の方々。あんぐり口を開けたまま固まる日向に頭を下げて、小走りに背中を追った。

私が隣に来ると歩くのが少しだけゆっくりになることに気がついたのは、わりと最近。
こっそり見上げてみたけれど、すぐに大きな手が私の顔を覆ってしまった。

「ちょっと!見せてよ」
「嫌ですけど」
「いじわる」
「悪趣味」
「そっちだって」

校舎を曲がってすっかり部室棟が見えなくなった頃。
右手の甲にコツン、と月島くんの手が触れる。思わず口元が緩んでしまった。月島くんは何も言わないけれど私にはわかる。
いい?って、聞いてくれている。

私からもコツンと甲を当て返せば、そっとすべってきたてのひらに包まれた。
こっそり盗み見たその顔がやっぱり赤くなっているのがおかしくて、ぎゅう、と握り返した。

ねえ、月島くん。
大好きだよって、伝わった?


end.

『普段はツンツンだけど二人の時に若干のデレを見せてくる月島くん』でした。

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