本日のノルマをクリアした頃にはすっかり陽が傾いていて、外は薄暗くなってしまっている。
竹田先生はあれから最後まで戻ってこられず、私たちがちゃんと取り組んでいるのか心配そうだったけど、プリントに一通り目を通して表情を柔らかくした。

「名字も最後まで埋められたんだなー」
「はい!大澤くんにたくさん教えてもらったんですけど、わかりやすかったです!先生より!」
「お前な」
「ふははっ。名字さんマジウケんだけど」

気を付けて帰るんだぞ〜と手を振る先生に見送られて私たちは学校を出た。

草と花の香りと混ざって、夏がはじまる匂いがする。
長い腕をぐーっと伸ばした大澤くんが鞄を背負い直した。

「名字さんていっつも電車?バス?」
「私近いから自転車なんだよね。大澤くんは?」
「俺はバス。実際歩いて帰れる距離なんだけどさ。もう暗いから送ってくよ」
「えっいいよいいよ、大丈夫」
「どうせバス来るまで暇だし、女の子一人で帰るのってやっぱ危ないじゃん?」

ね?と言われてしまったら断るに断れず。
自転車置き場に留めておいた自分のを押して、最寄りのバス停まで大澤くんに送ってもらうことになった。

男の子とこうして歩くなんて初めてだなあ。それも初めて話した男の子と、だなんて。
隣の大澤くんはのんびりと歩いていて何を考えているのかは全然わからないけど、私みたいに緊張してはいなさそうだ。

「ねーねー名字さん、ちょっとそこのコンビニ寄ってもいい?時間かけないから!」

別にゆっくり見てくれてもいいのに、「どーせ買うもん決まってっからさー」とだけ言ってピューっとコンビニに入っていってしまった。
よっぽどお腹が空いてたらしい。食べ盛りの男子高校生だもんなーと中を覗くともうお会計をしている。
自転車を止めているうちにお店から出てきた大澤くんがビニール袋を二つぶら下げて戻ってきた。

「おまたせー」
「全っ然待ってないよ。早かったね」
「言ったじゃん?いっつも同じの買っちゃうの。ハイこれ」

差し出されたのは肉まんで、まさかこんな展開になるとは思わずバッと顔を上げた。

「いやいや!いらないよ!」
「えっ嫌い?もしかして夏は食べない派?」
「いやそうじゃなくて、えっと、寧ろ私が奢るのが普通なのに!勉強教えてもらったのに!大澤くん食べて!」
「えーでも俺自分のあるし、飲み物も買ったし。気にしないで受け取ってよ。ほら」

お、男の子ってみんなこんな感じなの……??
しばらくごねたのだけど、冷めちゃう前に食っちゃおーなんて呑気に言われてしまったらそうするしかなくて。

「あ、ありがとう。いただきますっ」
「召し上がれー」

思っていたよりもお腹が空いていたみたいで普段よりも美味しく感じる。
大澤くんは口いっぱいに頬張ってリスみたいで少し可愛い。バクバク食べて気がついたらもう一つにも手を伸ばしていて、これが男の子か……!と一人思っていると目が合った。

「なに?こっちがよかった?」
「ううん。小動物みたいで可愛いなって」
「ぶっ!ぐ、げほっ、俺一応180あるよ!大型だよ!」
「あははっ!そういう意味じゃないよ!なんか食べ方がリスっぽくて……ほら見て!」

こんな感じだよってリスが頬張ってる写真を見せたら予想以上に食いついてきた。

「え……なにこれちょー可愛いじゃん俺、愛くるしいじゃん……」
「あはは、気に入っちゃったね」
「可愛いは正義だからね」

俺の持ってる可愛い画像はねー。と大澤くんがポケットからスマホを取り出したので、すっかり冷めた肉まんを片手にしばらく二人で同じ画面を覗き込んでいたのだった。
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